今年3月に自身の“第一章”完結となるEP『ロマンスのはじまり』をリリースしたばかりの声優・シンガーソングライターの大塚紗英が、“第二章”の幕開けとなる最新曲『全人類ヒューマノイド』のMiusic Videoを5月28日(日)に解禁した。
本作は、ストリングスを基調とした荘厳かつポップなサウンドと「人生は選択の連続」というテーマをSF的世界に昇華させた印象的な歌詞、そしてドラマティックな大塚の歌唱、このすべてが見事に合わさった珠玉の1曲になった。
今回はリリース記念に大塚への超ロングインタビューを慣行。前後編にわたり、『全人類ヒューマノイド』の世界を解体していく。後編はサウンドメイキングとMV撮影秘話についてお送りする。
―今作の音についてですが、ストリングスの荒々しさと流麗さが入り乱れた、プログレッシブな展開とサウンドになっているなと思いました。どのようなイメージで作られたのでしょう?
大塚紗英さん(以下、大塚):イメージか……音楽的に「こうしよう!」と考えていなかったのですが、「砂漠化した地球で独りぼっちになり、愛と共に心中するのも幸せだ。きっと想い人は今頃火星の社会に溶け込み生き延びているだろう、けどそこに感情はあるの? それは幸せなの?」という歌詞のイメージを、そのままガッと曲にしようとしていましたね(『全人類ヒューマノイド』歌詞制作の話は前編を参照)。
―そのイメージを具現化し、アレンジへと落とし込むわけですが、完成系はどのようなイメージでした?
大塚:明確にあったのはストリングスを基調として、カルテットの音に自分の声が混ざり合っていくオーガニックなポップスをやりたかったんです。私は空間が広く構成がシンプルで、全部のパートが何をやっているか聞こえ、さらに各パートのフレーズのアンサンブルが綺麗に聞こえる曲が、どのジャンルでも好みなんです。そうした音がそれぞれ明確かつ美しく響く音をやりたいな、と。ただ、色んな音がてんこ盛りになった曲を好んでいる方からしたら「スカスカに聞こえるかもなぁ……」と危惧していたんです。
―今作のアレンジャーは新進気鋭の作家・椿山日南子さん。今回が初のタッグですが、どういった経緯で椿山さんを知り、お願いしようと思われたのでしょうか?
大塚:こういったジャンルが得意な素敵なアレンジャーさんはいませんか?と、色々な人に相談していって、紹介していただいた中に椿山さんがいらしたんです。椿山さんがアレンジした曲を聴いたら、ストリングスのラインがメッチャ綺麗な曲を作っていらして。この凄まじいフレージング力なら、この楽曲の世界観を最大限に引き出していただけるなと思い、想いを伝えたところ、無事OKをいただきました。
―椿山さんとはどのようなやり取りを経て、この形に仕上げていったのでしょう?
大塚:それが衝撃的で。相当細かいオーダーをチームの人と一緒に話し合って作り、世界観の説明も含めかなりの文章量でお送りしたんです。上がってきたものが想像以上のクオリティのカッコよさに仕上がっていて。私、初稿をいただくときは「これ、どうしよう……」と悩んでしまうことが多いのですが……『全人類ヒューマノイド』の初稿が届いたとき、もう、本当に一発で、ほぼ完成状態だったんです。「スゲー! 天才って本当にいるんだ!!」と、思わず笑っちゃいました。
―ウワモノがストリングスのみで、シンセやギターはほぼバッキングに徹し、音数も抑えられているのが面白い作りだと感じました。
大塚:ギターの“壁感”はこの世界には向かないと考え、ギターは極力無くしたかったんです。ただ、このシンプルな音をキャッチーでポップに落とし込むかが課題で。完成までドキドキしていましたが、椿山さんの才能で本当に素晴らしい形にしてくださって、一気に不安が吹き飛びましたね。
椿山さんとは、レコーディング現場で初めてお会いしたのですが「好き勝手やっちゃったけど、大丈夫でしたか~?」と、ニコニコ~、フワフワ~と語りかけてくださったんです。「このフワフワした人柄から、この強烈なアレンジが出てくるんだ~!」と驚きました。
さらに、新しさもありつつ聴き馴染みが良い……。「アカデミックなポップ」になったのは、竹内哲郎さんのミックス、すぐに私の声のよいところを見つけてくださり広げてくれたレコーディングエンジニアの佐藤陽子さんの存在も大きかったなあと。
―“チーム・大塚紗英”として、大塚さんの意図や想いが全員に通底していますね。それをすべて汲んで形にされたものが、見事にパッケージされているなと思います。
大塚:完成したものを聴いたときは本当にうれしかったです。毎回ミックスの時は「どうしよう?」が口癖になるほど心配になっているのですが、竹内大先生のスタジオで音源を聞いたときはもうスゴすぎるあまり、ジェットコースターに乗っているときぐらいドキドキしていたんです。
「もう感謝しかありません」と伝えたら、竹内さんから「僕は頑張っている人が好きでね」と言っていただけて。私の曲に込める想いが届いて、その想いをたくさんの方が力を合わせて形にしてくださったんだとうれしくなり、より皆様に恩返ししなければと身が引き締まりました。
―大塚さんの曲による恩返しが第二章の軸になっていきそうですね。
大塚:すでに、次なる一手を練っておりますので、それを楽しみにしていただきたいですねえ。けどなあ……どうなるんだろう? 怖いなあ、けどやるしかないなあ(笑)
―『全人類ヒューマノイド』を語るうえで欠かせないMVについてもうかがえればと思います。こちらはかなり複雑な構成になっていますね。
大塚:今回のMVは私が色々と物語構造を練ったのですが、初稿段階では本当に歌詞の「火星移住計画」の内容をCGを織り交ぜながら作る案も出たんです。ただ、さすがにこの初稿をそのまま形にすると、予算的に絶対無理だということで、この形に落ち着きました。歌詞の世界観をそのまま再現しようとすると、CGを多用しなくちゃいけなかったりと、めちゃくちゃお金がかかりますし(笑)
―確かに(笑)
MVを拝見するに「何を選ぶか?その選択は本当に正しいのか?」という、歌詞と同じテーマを描いていますが、歌詞から独立した世界観になっていますね。
大塚:個人的な考え方ですが、曲に準じたストーリーを映像にするなら、「映像いる? 歌いる?」って、なっちゃうんです。
―歌詞そのままのMVは歌への没入度を阻害する上、想像力を狭めてしまうので私も苦手です。目からの情報量は、とてつもないものですから。
大塚:そうなんですよ。「なぜMVを作るのか?」の意味・理由は、その曲の良さをより引き出すためのものだと考えていて。『全人類ヒューマノイド』の良さを引き出すには、歌詞と同じストーリーではダメだと思うんです。
―あの世界観を映像化するには、相当頭をひねったのでは?
大塚:はい。限られたコストの中で、今作の世界を実現するにはかなり難しいと思いつつ、練っていきました。最終的に登場人物は2人で完結するものにして、少ない情報、登場人物で面白くするには、時系列をちりばめるしかないと考えました。しかも、パッと見で物語の骨格は「理解できる・できない」のギリギリを狙ったんです。それを形にしたら、多重構造になるのかなって。MVの限られた時間で深く考えて、楽しんでもらえるような作品にできたらいいなと思いながら、藤田監督に色々提案していきました。
―大塚・藤田組のMV撮影は毎回大変だとうかがっておりますが、今回も相当大変だったと。
大塚:そうでしたねえ…(遠い目)。今回はロケ地が東京・渋谷と静岡・伊豆大島だったのですが、大島での撮影のスケジュールがタイトでして。撮影期間は3日間で、しかもその後に別件も入っていたんです。大島行きのフェリーが最速で着くのが朝の10時半、大島から東京への最終便が15時と、ものすごく短くて。しかも、事前のロケハンがスケジュールの都合で1つ潰れてしまったため、本番ぶっつけでの撮影になっちゃったんです。もう、終始ドキドキしていました。
―内容も衝撃的映像の連続。特に藤田監督、大塚さんに引きずられたりとえらい目に遭っていますね。
大塚:アハハ! あれ、本当に引きずっていますからね。その後に筋肉痛になり、撮影後レコーディングに行ったところ、楽譜のページが痛みで捲れませんでした(笑)
けど、あの引きずるシーンは絶対に必要で。「あの場所でタイトルをドン! と出したらインパクトがあるね」ということで「ここで絶対やろう!」となったのですが、他シーンとの兼ね合いで30分以内に撮り終えないといけなくなり、これでもかと集中しながら臨んでいました。
―ミニマルかつ手弁当での制作ゆえの知恵が詰め込まれていますね。
大塚:本当に。今回、タイトルのロゴも私が手書きで作りましたからね。
―えぇ!?
大塚:ロゴを発注する時間がなかったので「渋谷TSUTAYA」のレンタルDVDコーナーで、いくつか作品タイトルを参考にして、その後スタジオで書き上げたんです。
―いやあ、涙ぐましい。MVも楽曲とともに愛してもらいたいところですね。
大塚:本当に。本当に熱量を込めたので、たくさんの方に愛していただけたらうれしいです。
最近すごく思うんです、何か作れば作るほど「己を顧みて原点に立ち返れるな」って。自分だけの世界を作っていると傲慢にもなりやすくなるんです。『全人類ヒューマノイド』のMVに関しては、私たちはお話を作った本人ですし、1つの解釈があります。その解釈は誰にも明かさないので「わかりそうでわからない」、そのバランスを狙って作りました。
けれど、そのバランス感が崩壊するとただの自己満足。「人に届かなくていいや!」となっちゃう。なので、一度は完成間際までいったのですが、他の方からの意見も聞いていくうちに「初見の人に伝わらないのでは?」と、内容を変えようと思ったんです。「やはり人に届かないものはダメだ!」ということで、届く先の人の気持ちを考えることが作品作りに一番大事だと思い返し、半日かけて構成し直しました。結果、よりよいバランスの作品に仕上がって、思いやりをいかに持って制作するのが大事かと反省しました(笑)
―自分の考えに固執するのではなく、誰かの意思や意見を介在させて、世界を広げていくのは創作で大切なことですよね。
大塚:本当にそうだと思います。だからこそ、私の考えを汲んで尊重してくれて、しかも広げてくれるみなさんには本当に感謝しかありません。チームのみなさまのおかげで、大塚紗英は成り立っています。
―「愛を捨てて進化するか? 愛に殉じるか?」を歌った曲で、結果的に人への愛が深まったと(笑)
大塚:アハハ! 本当にそうですね。私、たくさんの人と創作物に育てられっぱなしです。
<インタビュー/田口俊輔>
【MV情報】
『全人類ヒューマノイド』
原作:大塚紗英
■Music
作詞・作曲:大塚紗英
編曲:椿山日南子
Violin:Ayasa
Cello:堀沢真己
■Movie
主演:大塚紗英
カメラマン:中尾浩嗣
監督:藤田大介
●『全人類ヒューマノイド』MV
https://t.co/UbtSbkIFa5
●大塚紗英 公式サイト
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●大塚紗英 公式ツイッター
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