千葉県東金市を舞台にした“ゆるアニメ”『とーがね!おまつり部』(以下、『とーがね!』)。「スタッフ&キャストに予算の殆どをつぎ込んだ」“動か(け)ないアニメ”として話題を呼んでいる本作。現在YouTubeで好評配信中だ。
故郷の東金市に戻ってきた女子高生・栃野みのり。彼女を中心に、衰退した東金駅西側の商店街を「おまつり」でふたたび盛り上げようと「おまつり部」の5人が奮闘する青春ストーリーとなっている。
今回は番組のプロデューサーにして、東金商店街連合協同組合の理事長を務める鈴木真也さんへインタビューを実施。プロデューサー視点、東金商店街視点を交えての『とーがね!』誕生秘話と、アニメがもたらした東金市への変化など、ディープな話をうかがった。
―『とーがね!おまつり部』の放送開始から、はや半年近くが経とうとしています。鈴木さんから見た、『とーがね!』放送後の東金市の雰囲気はいかがですか?
鈴木真也さん(以下、鈴木):放送前の準備から放送中の間は突っ走りすぎて、周りの状況が把握できていなかったのが正直なところで。物語終盤を迎えたころに、「観たよ」と街の人からの反応をいただけたとき、ホッと胸を撫で下ろすとともに、作品を楽しんでくださる方が多いんだと、やっと理解しましたね。
まず目に見えて、街の中にも『とーがね!』を応援してくれる方が現れました。例えば「トゥクトゥク(タイで走る人々を送迎する三輪の車)」という、日本でいうタクシーをレンタルしている会社「小川タクシー」の社長さんは、作品はもちろん出演声優さんの応援もし始めて。岡本麻衣さんが行ったラーメン屋「麺diningけいず」で、おかまいさんが食べたセットを、「おかまいセットで発売した方がいい!」と提案したりと、積極的に『とーがね!』の宣伝と、お店への番組を使った宣伝を呼びかけくれていて。実際に「けいず」では「おかまいセット」が発売になりましたからね。
ほかにも、どこかの企業がイベントを開催したり、最近では東金にある城西国際大学の方から、文化祭で『とーがね!』に絡めたイベントを開催したいという申し出をいただいて。『とーがね!』をキッカケに、東金を盛り上げようという人たちが徐々に増えてきている気がします。その証拠か、うれしいことに「2期はやらないの?」という声をよくいただくようになりまして(笑)
―そういう声が届くといたことは、『とーがね!』が掲げていた「東金市の活性」という目的が成功した証拠ですね。
鈴木:正直、「してやったり」だと思いましたね。この話をしたときも、きっと商店街のみなさんは、快諾したものの「アニメ?絶対にムリでしょ」と思っていたはず。それが蓋を開ければ、声優さん、制作陣にプロ中のプロの方々が参加された、クオリティの作品に仕上がっていて度胆を抜かれたと思うんです。中でも関 智一さんのご出演は大きかった。最近の子からすれば『鬼滅の刃』や『ドラえもん』、私の世代では『機動武道伝Gガンダム』で知られる超有名な関さんの出演です。決まった時は、「まさか!?」とみんなから驚かれましたからね。しかも演じるのが“あの”やっさくんですよ(笑)。ここで1つ大きな説得力を持てた気がします。さらに俳優の半田健人さんや、東金出身のプロレスラー・永田裕志さんにも出演いただいたのも非常に大きかったです。
キャラの名前から設定にいたるまで東金市にまつわるものが織り込まれて、物語の背景に東金の風景を使っていただいて。本当に全ての面において、東金市という街すべてを、作品を通じて盛り上げたいという想いが流れている作品だと、僕も拝見して思いました。こうした熱い想いが通じて、そこからら街の人たちのやる気に繋がっている気がします。
―実際に『とーがね!』を見た方が東金市を訪れている、というツイートも見かけるようになりました。
鈴木:放送中からファンの方が、駅前のいちご飴を販売する「リアンストロベリー」を訪れてくれていたみたいで。私の妻が働いているので、来店された方に色々とお話を聞くと、『とーがね!』を見て、北は北海道、南は大阪、愛知、岡山と全国各地から足を運んでくださったそうなんです。作品を見た方が遠路はるばる東金にいらしたという、『とーがね!』の力を目の当たりにしたことも街の人にとって衝撃的だったはずです。
―他県の方が観光目的で東金市を訪れるという光景は、鈴木さんが東金市で本格的に事業を開始したこの10年でありましたか?
鈴木:私の知る限りではほぼなかったと思います。そもそも『とーがね!』では、日吉神社の祭りが、出店も出るような盛大な催し物として派手に開催されるものと描かれていますが、本来は地元の人が日吉神社の神様に感謝するために取り行なう神事としての祭りでして。外の県の方が何か大きな目的で東金に来るということは、正直ない状態だったんです。
……そう言えば面白いことに、『とーがね!』放送にあたり、日吉神社の祭りを仕切る会の方に「日吉神社の祭りを題材にしてよろしいですか?」と、許可を取りに行ったんです。そうしたらちょうど、日吉神社としても祭りを盛大に前面に出していこうという話が持ち上がっていたそうで、「ぜひとも」という流れになったんですよ。すごいタイミングだなって驚いた思い出があります。
―すごい偶然ですね。そもそも『とーがね!』が始まったきっかけも、ものすごい偶然が重なったとうかがっています。
鈴木:はい。EDテーマを歌っているTЯicKYさんが、数年前に偶然東金市のご当地ラーメン(ぐうらーめん)を食べに東金に訪れた際、ラーメンの味にも東金の景色にも感動して、『東金タイムカプセル~ココロノヒミツ~』を作ってくださったんです。そのご縁もあり、東金でMusic Videoも制作したんですね。
撮影終了して間もなく、TЯicKYさんから「友人がチバテレでアニメ制作することになり、東金の話をしたところ、ぜひお話しを聞きたい」と連絡がきて、和田(拓)プロデューサーにお会いすることになりまして。おもわず話が弾み、和田さんから「東金を舞台にしたい」と言っていただいたんです。
商店街の理事会でそのことを報告したところ、商店街のみなさんが「真也君の好きにやってほしい」と快諾してくださって。そこからは全てがとんとん拍子に進んで……。
―第11話で日吉神社のカミサマがみのりの前に現れて彼女を導いたように、鈴木さんももしかしたら『とーがね!おまつり部』をやりなさいと神様に導かれたのかも。
鈴木:いやあ、そんな気がしています。ここまで偶然が重なるとは、不思議以外の言葉がありませんよ。まさに神様の思し召しですよね(笑)
―鈴木さんご自身も、放送前後でとりまく環境が変わったかと思います。
鈴木:ちょうどアニメ制作の数ヶ月前に、東金商店街連合協同組合の理事長に就任して、すぐのプロジェクトだったんです。企画が走り始めてから約1年経ちましたが、『とーがね!』のおかげで、各所でも東金市のことを聞くようになって。その結果の1つとして関東商工会議所連合会から、コロナ禍でもイベントを開催したり、情報を発信し続けて地域を盛り上げたことを評価され、賞をいただいたんですよ。
僕はプロデューサーという立場を経験したのは、この『とーがね!』が初。それが、番組終了後から、企業の店舗プロデュースの仕事が舞い込むようになってきました(笑)
『とーがね!』からもらった勢いと流れを絶やさないように、これからも企業の商品開発や店舗プロデュース、企画などをやっていき、街の活性化に繋げていきたいなと思っています。
―視聴者からすると、『とーがね!』は今年放映されたアニメの中の1本かもしれません。しかし、東金市、鈴木さんにとっては特別な1本になったと。
鈴木:本当に、誇張なく人生を変えてもらいましたよ。
―実際に『とーがね!』をご覧になって、どういう感想を抱きましたか?
鈴木:最初に、和田プロデューサーと内容を相談する中で『Peeping Life』のマネージャーを務めた中島弘道さんが参加してくださると聞いて、「笑い」の方向で行きたいとなったんです。僕、『Peeping Life』の「シュールな笑い」が好きで「それいいですね!」と話したんですよ。いざ放送を見たら、想像以上にギャグ満載になっていて、メチャクチャ楽しく追っていました。
―東金市民としては「ギャグ7割:ドラマ3割」の展開で大丈夫だったのでしょうか(笑)?
鈴木:逆にあれだけ笑いがあったのがよかった。登場人物全員が、祭りや日吉神社、イチゴ飴など、東金にまつわる自分の好きなこととなると暴走していく展開が、作品に勢いをつけてくれているように思えて。
あと、先ほど出た城西国際大学の方からは、「最近のアニメは女性の露出やセクシーな場面がウケの要因なので苦手なんです。けれど『とーがね!』は完全に笑いに振りきっていて、新しくて面白かった。周りのアニメ好きの人間からも『面白い』と言われました」と言っていただいたんですよ。他作品との差別化もできて、なおかつメチャクチャ面白かったおかげで心を掴んだんでしょうね。地元の人たちも、こうした反応がうれしかったはずです。
―鈴木さんとしては、どの回、どのエピソードが個人的に好きですか?
鈴木:シュールな笑いが良いと言いましたが、僕は第7話の、主人公の栃野みのりと神代すばるの、祭り開催に対するやり取りにグッときましたね。みのりの祭りへの想いが、すばるの不安を吹き飛ばす展開には、すごく僕らの想いも乗っていて。まさに物語もここから大きく動いていく、タイトル通り「本当のはじまり」という回でした。勢いにのるあまり、まさか最終回が前後編になるとも思わず(笑)
結果、この「笑い:7、感動:3」という見事なバランス。脚本家の塩見(鷹虎)さんはすごいなあと思いました。
―個人的には岡田いおなという東金市の駅東側を象徴するキャラクターの存在を、西側文化に縁の深いおまつり部の面々に組み込んで、東西で力を合わせて盛り上げたいというメッセージに昇華しているのがすごくステキだと思いました。
鈴木:そうなんですよ。中身がメチャクチャ深いんですよね。
―今年秋に日吉神社連合祭典が8年ぶりに開催が予定されたり(※新型コロナの影響で中止、「アニメ『とーがね!』リアルイベント」として開催)と、地元の空気も少しずつ変わり、そして鈴木さんの人生も変えた。今後も『とーがね!おまつり部』と共に東金市は、様々な変化があるかと思います。鈴木さんはこの先、『とーがね!』しすて、東金市にどんな期待を持っていましたか?
鈴木:自分の考えとしては、『とーがね!』は日吉神社の「おまつり」というものにフィーチャーしましたが、東金市には数多くの郷土研究会が存在する歴史に縁のある街でして。その数々の歴史をアニメで発信していきたいなと。
―日吉神社の祭りで1作品できたということは、それ以外の歴史にも深い逸話があるということですよね。
鈴木:そうなんです。例えば、徳川家康が鷹狩の地として親しみ発展したという歴史や、縄文時代の遺跡があったり……と、どれも濃すぎるぐらいに濃いんです。とはいえ、これだけ豊かな歴史があっても、興味のない方・全く知らない方もいるわけで。知らないのはもったいない。知れば必ず面白いと思ってもらえる東金の歴史を、アニメというコンテンツを通じて発信すれば、きっとこの東金市という街を身近に感じてもらえるはずだと思っています。
―これは何作あっても魅力を伝えきるには足りませんね(笑)
もしアニメ第2期、3期と作品が作り続けていければ、『とーがね!』シリーズが新しい文化財になる可能性もあると。
鈴木:話のストック的にはいつでも始められる状態なんです。後は資金と時間さえあれば(笑)
―ありがとうございました。
<インタビュアー/田口俊輔・撮影協力/道の駅 みのりの里 東金>
●アニメ「とーがね!おまつり部」公式ツイッター
@togane_omatsuri
☆アニメ本編はこちらで全話配信中!
●アニメ「とーがね!おまつり部」公式YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCK-jbtrxChcAbFPasTamq4Q/videos