「大人のものになってしまったアニメを子供戻りさせたい」 富野由悠季監督最新作『ガンダム Gのレコンギスタ』舞台挨拶レポート

By, 2014年8月25日



『無敵超人ザンボット3』、『無敵鋼人ダイターン3』、『伝説巨神イデオン』、『戦闘メカ ザブングル』、『聖戦士ダンバイン』、『重戦機エルガイム』『ブレンパワード』、『OVERMANキングゲイナー』、そして『機動戦士ガンダム』シリーズなどを手がけた富野由悠季監督の最新作『ガンダム Gのレコンギスタ』が、10月からのTV放送を前に2週間限定で劇場公開されている。公開2日目となる8月24日には新宿ピカデリーにて、富野由悠季監督、ベルリ・ゼナム役の石井マークさん、アイーダ・スルガン役の嶋村 侑さん、ルイン・リー役の佐藤拓也さんによる舞台挨拶が行われた。今回はその模様をお届けする。富野監督としても今作への気合いの入りようは並々ならぬものがあるようだ。

――まずはご挨拶から。

富野由悠季監督(以下、富野):既に一部で告知されてる通りです。ガンダムを使って脱ガンダムをしながら、なおかつ大人のものになってしまったアニメを子供戻りさせたい、というようなことで考えたのがこの企画です。今言った趣旨に出来上がってるかどうかは、本当にわかりません。ご覧いただいた上でみなさんのご理解をいただきたいと同時に、次の世代の子たちにこんな作品があるんだよって事を紹介いただけたらありがたいと思います。

――改めて新作を届けることができたことについていかがですか?

富野:製作ができたということは、今までのファンの方がいらしたからできたわけです。そういう意味では本当にありがたいと思います。と同時に35年間のガンダムの歴史の中で、アニメというものが段々大人のものになってしまった。60という年齢を迎え自分が孫をもつようになった時に、こういう状態が本当にいいんだろうか、と考えるようになりました。

それ以後、こういう作り方もあるのではないかという、そのこういうものというものを考えてまして、ようやくこういう形にすることができました。ただ、そういう時に自分一人の考えでは絶対に新しいものは作れない、と実感しておりましたので、例えばその宇宙エレベーターというものは僕にとっては本当に絶対に許すことのできない存在なんですが。そういうものを触ることによって、教えてもらえるものがあるのではないかと思いました。
事実、宇宙エレベーターを開発してる方々とお話しさせていただいたりしていて、そういうのもヒントになりました。なので、今回の『Gのレコンキスタ』も冒頭の舞台が宇宙エレベーターを使うことが出来た。

ガンダムワールド的な進化をさせるのではない作り方というのは、もうひとつ宿題として設定しました。そういうものを「僕はこういう形でまとめますよ」「新しい世代に向けてはこういうアニメもあるんだよ」と知らしめたいと思いました。なのでこういう作り方にした、ということです。

問題なのは、これが正しいかどうかというのは、なまじキャリアがあるための間違いを犯してるだろうとも思ってます。ので、その部分を是正させてもらうためには皆さん方の意見を聞かせていただきたい。そして何よりも、今一番ターゲットにしている10歳から17~8歳までの、子どもたちの世代がどういうふうに見ていくれるのか。逆にこういうものもあるんだよってことを知らしめることによって、次の突破口を開いていきたい。

十年後には次の新しいものを作っていきたいっていうぐらいの気持ちを持っていないと、ものを作る人間としての資格が無いんじゃないのか、そういう自覚がありまして『Gのレコンギスタ』を作らせていただいておりますし、現に今日までかなりどたばたしたスタジオワークですが。

ともかくこういう形にすることができたという意味では、まだまだ東京のアニメーション制作事情、決してまだどん底まで陥っていないって事も確認しました。なので、次の10年20年に向かって作ってみせるって気概でいます。問題なのはその時に僕がいないってことです(笑)。90過ぎまで仕事をさせるな、と(笑)。

――この作品は子供に向けてという気持ちが強いですよね。

富野:もちろんそうです。実を言うと子供目線でわかってもらうように作るってのはどういうことかって、改めて感じさせれています。つまり自分の思考回路や好みだけでは絶対に作らせてもらえない。自分自身が子供目線に降りたとは言いません、降りられるとも思ってはいませんが、その面倒さがあるおかげで逆に言うと、少なくとも、なんと言いますかね。

作り慣れた手技を見せることではなくて、自分自身ももう一度元気にさせてもらえる。そのためにやっぱり子どもたちを見るおじいちゃんの立場で言えば孫の顔を見る、孫たちが喜んでもらえるということはこういうことなのか、そういう配慮をするということを改めて思わされた。それは実を言うと相手に対しての配慮ではないんです。

そういう配慮する心を持てるようになってきた時に自分自身もひょっとしたらあと1年あと2年長生きができるかもしれない、そういう力ももらえている。

ということは作品を作るというのは自分の好みだけで作るのではなくて、それぞれの世代の立ち位置を意識して、年寄りが伝えられるのがあるのではないか。だけども、それを伝えるためには孫たち、それからその次の孫たちの顔を思い浮かべるということがとても大事なことなんじゃないのかなと改めて教えられました。

今の大人たちってのは手前たち自分の世代の事しか考えていない、自分が死ぬまでの事しか考えていない、だからこういうのに100年先に対しては無責任な発言ができるような、大人たちの社会になってしまったって事をつくづく感じるので。

そういう大人に対して「たまにはこんなのものも見てみたら」って、逆説的な意味で大人に向けてとても痛い作品になってるかもしれないって、最近改めて感じるようになりました。

――今作では主題歌の作詞も手がけられていますが。

富野:その辺は職権濫用でやらせていただいておりまして(笑)、ただそれだけの事です。そういう意味ではキャリアはありがたいなって思ってまして、今言った年齢にいくまでの年金が欲しいので、是非その辺についてはご協力いただきたい(笑)。

レオンギスタ_02

――昨日(23日)公開を経て、今の気持ちをキャストのみなさんに伺います。

石井マークさん(以下、石井):昨日から思っていることなんですけど、たくさんの方が見に来てくださるのがとてもすごいことだなって思ってて。そういうことを感じながら今後、どうやってベルリを頑張らなくちゃいけないのかなっていうのを、すごく考えさせられました。

嶋村 侑さん(以下、嶋村):私も石井さんと同じような気持ちでいます。昨日今日と、この作品に対する期待の大きさをすごく感じる二日間なので。「頑張ろう!」と、また思います。

佐藤拓也さん(以下、佐藤):富野監督の十数年ぶりのテレビシリーズということで。たくさんのみなさんの期待を昨日今日と感じていますし、その期待に応えられるように頑張らなくちゃいけないなと、あらためて感じています。

――これから見る方に、ここは注目して欲しいポイントなどあれば。

石井:こうしてレギュラーでアニメを演ることが初めてなので、それだけの気持ちと気合を入れて1話に臨んだので。やっぱり1話の出だし、ベルリが出てくるんですけども、そこからどうやっていかにベルリがこういう人だよっていうのを伝えられるかなって思って演ったところなので。あとは2話の後半にちょっとあるシーンがあるんですけど……そこですかね。

嶋村:私も2話のあるシーンのセリフをオーディションの時に読ませていただいて、それからずっと自分の中で「ああでもないこうでもない」と溜めてきたものをやっと吐き出せたシーンなので、是非。流れの中で見て頂いて、何か感じていただければな、と思います。

佐藤:見どころという意味では石井さんと嶋村さんが言ってくれたので。僕は、フィルムを見させていただいた時に、僕らが子供のころに見ていたアニメってこうだったよなって感じて。夕方5時6時に学校が終わって遊んで帰って走って見に帰ったアニメってこんな感じだったのかなって、どこか懐かしさを感じることもあったんですね。
今もしかしたら夕方アニメをやっていたなんて知らない若い人たちにも「こういう賑やかなアニメがあるんだ、愉快なアニメがあるんだ」って感じていただければ、関わらせている者としては嬉しく思います。

――キャストの皆さんは富野監督と同じ現場で収録されていて、エピソードなどありますか。

石井:まあ……第1話から僕は……(笑)、色々とご指導を受けまして。初めて演らせていただくので、本当にどうしたらいいかわからなくて。少し臆病になってた部分もあって、それで声も出なくなるわけじゃないですか。もちろん技術面のこともあって。そしたら監督から「腹から声出せ!」って言われて「ヒィィ!」って(笑)。

技術面とか経験に関してはどうあがいてもこれからやっていかなきゃいけないし、頑張らなきゃいけないところだけども、立ち向かうことはできるかなって。そういうことがあったとしても負けることなく体当たりで富野監督についていけたらなって収録させていただいてもります。

嶋村:大変なことはたくさんあるんですけど、富野さんは終わってからというか最後にヒントというかアドバイスというか、「道」っていうんじゃないですけど、そっと示してくださいます。言葉じゃなくてただ「ポンッ」とか。

佐藤:子供の頃から拝見しておりますけども、収録現場はスタジオの様子としてはキャスト陣が比較的若いんですね。若いんですけども小さくまとまってしまうというのが、悔しくも僕たち世代なのかなって、時に感じてしまうんですが。だからこそ監督がすごいエネルギッシュな方なので、そこに負けちゃいられねえなってなっていうのが正直なところだと思います。

――今回上映は1話から3話ですが、今後の展開に対する意気込みを伺えますか。

富野:26話分のシナリオを書いておきながら、スタジオワークに入って3ヶ月前ぐらいに、この作品がどういう作品かってようやく気がついて。「なんだこれは、ロードピクチャーだったんだ」。つまり旅立ちの出発があって目的地があって、なおかつ目的地からまた帰ってくる。行って帰ってくるっていうものを、ものすごいスピードでやってる話だって構造がわかってビックリしてます。

物語を作る上では、実を言うとそういう意識は全く無くて、ベルリとアイーダの物語という、単純なところで収めていくのと、それから宇宙世紀以後の収集をどうつけていくかって意味で、設定話に陥っている部分がすごくありました。そういう景色を作ることにだけ一所懸命になっていたシナリオの時代があって、実際にはアイーダとベルリが動き始めた時に今言った視点を手に入れる事ができて。映画として一番原理的な方法を取ってるんだと分かりました。

分かったことが実を言うと地獄の始まりで、こんなにまでキャラクターが出てきて、こんなにまで俗に言う「やられメカ」が出てきて、こんなにまでガンダム系のモビルスーツが出てきて、ふざけんじゃねえよって状況に陥って。そこへ持ってきてスタッフの数が足らなくって今パンク寸前だっていう。そりゃあそうだろうくらい、ある意味ひどい作り方になりつつありますが、頑張るぞっていう(笑)。将来の展望はまだ見えてません。

――最後にメッセージをお願いします。

富野:年寄り仕事にはしていないつもりですが、本人が思っているだけかもしれません。そういう問題を見つけましたらお教えいただきたい。そのことが次の活力になると思っています。

<Text/佐藤京一>

【イベント概要】
『ガンダム Gのレコンギスタ』特別先行版イベント上映中!
上映期間:2014年8月23日(土) ~ 9月5日(金) ※2週間限定

上映館:全国13館
 TOHOシネマズ日本橋
 新宿ピカデリー
 TOHOシネマズ六本木ヒルズ
 TOHOシネマズららぽーと横浜
 TOHOシネマズ川崎
 MOVIXさいたま
 TOHOシネマズららぽーと船橋
 TOHOシネマズ宇都宮
 TOHOシネマズ名古屋ベイシティ
 TOHOシネマズ梅田
 TOHOシネマズなんば
 TOHOシネマズ天神
 札幌シネマフロンティア
価格:1,300円(一部劇場で金額が異なる場合があります)

【放送概要】
『ガンダム Gのレコンギスタ』
MBS他「アニメイズム」枠内にて10月より放送予定

【スタッフ】
総監督:富野由悠季
キャラクターデザイン:吉田健一
メカニカルデザイン:安田 朗、形部一平、山根公利
デザインワークス:コヤマシゲト、西村キヌ、剛田チーズ、内田パブロ、沙倉拓実、倉島亜由美
色彩設計:水田信子
美術:岡田有章
音楽:菅野祐悟
音響監督:木村絵理子
企画・製作:サンライズ

<キャスト>
ベルリ・ゼナム:石井マーク
アイーダ・スルガン:嶋村 侑
ノレド・ナグ:寿美菜子
クリム・ニック:逢坂良太
ルイン・リー:佐藤拓也
マニィ・アンバサダ:高垣彩陽
ラライヤ・マンディ:福井裕佳梨

●アニメ公式サイト
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https://twitter.com/gundam_reco