坂本真綾のライブツアー『LIVE TOUR 2013 “Roots of SSW”』の東京公演が2013年4月24日(水)、Bunkamura オーチャードホールで行われた。アルバム『シンガーソングライター』の楽曲を中心に、マニアックなセットリストで届けられたライブをレポートします。
坂本真綾がすべての曲の作詞・作曲を手がけた最新アルバム『シンガーソングライター』は本当に素晴らしい。しかも、彼女のこれまでの歌手活動を知っていると、より感動的に聴こえてくる。
と、そんなアルバムを携えてのツアータイトルが『LIVE TOUR 2013 “Roots of SSW”』! つまりアルバムのルーツを巡る旅に出るライブというわけだ。しかも東京公演の1日目は彼女のデビュー記念日。「約束はいらない」がリリースされた日と同じ4月24日というのも、素敵な巡り合わせ。
ステージの紗幕に、作曲している風景を撮影した写真が、シャッター音とともに映しだされ始まったライブ。1曲目はアルバムと同じ「遠く」。紗幕が落ちてまず驚いたのが、坂本真綾がギターを持って立っていたこと。そしてさらに驚いたのが、イントロ終わりでおもむろにギターを置いたことだ(笑)。さすが(アルバムの初回盤特典DVDに収録の)作曲ドキュメンタリーで、弾いていないギターをカメラに映し込んでいただけのことはある。
オーチャードホールという雰囲気のある会場で、“弾かないんかい!”というツッコミをファンの心の中で入れさせたのは、おそらく彼女くらいだ。続く「サンシャイン」もアルバムと同じ流れ。パーカッションがより映えて、都会的な雰囲気が少し和らいで流れこんできた。
MCでも、観客の心を掴んでいる。“今日はみなさん、汗ひとつかかないですから!”と自ら選んだというセットリストについて、誇らしげに話す。そのくらい地味でマニアックな曲を並べたとのことなのだが、彼女は最近、バンドメンバーとステージ上でハジけるライブと、演奏をじっくり聴いて楽しむライブ、2つのタイプのライブを提供していたりする。今回はどうやら後者のタイプのライブのようだ。
“当時は背伸びして歌っていたんですけど、倍生きるとこうなる!”と宣言し歌ったのは、ほとんどライブで聴いたことがない「グレープフルーツ」。1stアルバムの曲が新たに生まれ変わった感じで、彼女が言った意味が、何だかすごく納得できてしまった。そこから3rdアルバム『Lucy』から「私は丘の上から花瓶を投げる」、最新アルバムから「ニコラ」「everywhere」と繋がり、ヨーロッパの風景が浮かんでくるような流れ。「ニコラ」は、すごく牧歌的な名曲で、とても心地良い。
続くブロックは「Ask.」から始まる。先ほどのMCにあったとおり、とにかくしっとりと聴かせてくれる曲が続く。アコースティックギターの音色が際立って響いてきた「誓い~ssw edition」、コーラスワークが感動的だった「カミナリ」、力強いバンドサウンドの中、突き抜けてくる歌声が心に染みた「極夜」も良い。
衣装を変えて歌った『cloud9』。これはアニメ『WOLF’S RAIN』のイメージソングで彼女の作品には収録されていないが、人気の高い曲、多くの人が喜んでいた。さらに英語詞の曲など、それこそ、今の彼女を形成してきた色んな要素を凝縮したセットリストに興奮してしまう。そんな流れで、さらに彼女の飽くなき好奇心というか向上心を歌った誕生日ソング「なりたい」の流れは、何だかとてもドラマチックに感じた。まだまだもっと良い自分になろうとする彼女だからこそ、人に何かを与えることができるんだと思う。
そして、終盤のクライマックスは、メドレー“Roots of SSW”だろう。ここで菅野よう子作曲の曲を多く並べたあたり心憎い演出だし、そこに「マジックナンバー」が入っていたことも、大きな意味がある気がした。が、メドレーとは言え「指輪」を存分に聴けたことに大満足。
この辺りでは、汗のひとつもかいてるだろうというくらいには盛り上がっていたのだが、本編最後はアルバムと同じく「シンガーソングライター」で締めくくる。この和やかで、幸せな曲。大きな手拍子に包まれながら歌う姿が印象的で、会場も心と体を揺らしながら、その時間を思う存分楽しんでいた。
“聴いて好きだなって思ってくれたら、それが一番です”と彼女は言っていたが、音楽って本当にそういうもので、感じて、いいな~と思えばそれでいいし、ここには彼女の曲を“いいな”って思っている人で溢れている。そんな素晴らしい空間ってないな、ライブっていいなと思った。
アンコール。ピアノをバックに歌った「蒼のエーテル」、個人的にアルバムで一番好きな曲「僕の半分」も良かったが、やはり一番は「Get No Satisfaction!」だろう。いろいろ前振りがあったが、せっかくアンプまでセッティングしてたのだからもっと弾かないとってことで、日本武道館以来のイントロが炸裂。ここが唯一見せる、坂本真綾の完璧ではないところ(笑)。それでも“3年放っといた”ギターを弾く姿は十分カッコ良かったです!
で、最後は「ポケットを空にして」を会場の全員が声を出して歌い、SSWのルーツを巡る旅は終了した。
<Text/塚越淳一>
●坂本真綾 公式サイト
http://www.jvcmusic.co.jp/maaya/