声優事務所「マウスプロモーション」の附属俳優養成所が2015年に30周年を迎え、それを記念した特別セミナーが2014年12月21日(日)、東京・吉祥寺の吉祥寺第一ホテルで行われた。
当日は多くの声優志望の若者の前で、マウスプロモーション代表取締役社長の納谷僚介氏が司会のもと、講師の谷育子さん、森田順平さん、卒業生の五十嵐裕美さん、高橋英則さんをゲストに迎え、レッスン内容の紹介や、在籍当時のエピソードなどを語った。
まずは谷先生が担当する「アテレコ実習」について。谷先生は「改まらずに、日常のあなたたちがしゃべってくれているようにしゃべって欲しいです」とアドバイス。さらに「高橋君と五十嵐君は、最初は劣等生でしたよ」という発言も(笑)。
さらに「皆さんは普段の会話では生き生きしているかも知れませんが、いざ台本を読むときは借りてきた猫のようになってしまいます。優等生ではダメで、自分の思ったようにやるのが一番です。私が皆さんに与えているように、皆さんも私に色々なことを与えてくれています。なんでもやってみたいことを進んでやってみてください」と、来場者に向けてエールを贈った。
ここでふたりの卒業生に対する司会者からの「ふたりの先生の授業でなにか思い出は?」という質問。
高橋さんは「森田先生に、ある時『お前、最近つまらなくなったな』、と言われたんです。そこで、自分の生まれ故郷である青森で使われている『南部弁』でしゃべってみたら、なんだかいつもと違う感覚になったんですね。何かコツを掴んだ気がします」と体験談を告白。
納谷氏も「2年というレッスン期間で、実は1年目の最初のほうの授業が一番面白いんです。でも2年の最後の方になると、技術が向上する一方で、演技がだんだんつまらなくなってしまうんです(苦笑)。そこのバランスがうまく取れるような役者さんが出てきてくれれば一番いいのですが……」と胸のうちを明かした。
五十嵐さんは「養成所に戻ってやってみたいことは今でもたくさんあります。谷先生には、いつも口癖のように『あなたはもっと面白くなるでしょう』と言われていたのですが、ある日ファンキーなおばあちゃんの役を与えられた時に『これは試されているな』と思って気合を入れていたら『どうせあなたにはそんな役は来ないから』と言われてショックだったのを覚えています(苦笑)」と、笑い話を披露した。
続いて、森田先生による「身体と声作り」のレッスン。
森田先生は「皆さん、モノマネはある意味簡単にできるのですが、実際に『声を出してみて』、と言われるとここまで届かないことが多いんです。自分の身体は、例えれば『楽器』です。自分の身体を隅々まで知って、ちゃんとコントロールができることが大事です。2年目になるとワークショップのような形で掛け合いもしていきたいと思います」と解説。
ここからは来場者を対象にした「実践授業」。声を使った仕事のレッスンでしばしば行われる、落語の「寿限無」を息継ぎなしで最後まで言い切る、という課題に挑戦。これは声優に必要な内転筋、横隔膜が自然と鍛えられ、そこから段階を踏んでスキルを伸ばしていく。
まずは高橋さんが見本。久々に行ったということだったが、森田先生が指示した「距離にして50メートル飛ばせる声」を見事に出すことに成功した。その後は来場者から何人か立候補者を募り、実践。森田先生から様々なアドバイスを受けていた。
続いて谷先生担当の「アフレコ授業」。最初に高橋さんと五十嵐さんがお手本として、実際に掛け合いを見せた。
谷先生は「初見の物語は、人物一人ひとりの立場が、聴いていてわからないと面白くないと思います。演じる方はドラマを自分の中に作っていかなくてはならないんです。言葉だけでなく気持ちも考えて、こちらもそれに対してのリアクションをしなくてはいけません」と説明した。
さらに、納谷氏の無茶ぶり(?)により、谷先生と森田先生の掛け合いも実現。来場者ならず高橋さんと五十嵐さんも真剣に聞き入っていた。ふたりが演じられた後、五十嵐さんから「おふたりは演じる上で何かプランがあるんですか? それとも瞬発力ですか?」という質問に、谷先生は「ただ相手を困らせたいだけです(笑)」と返答。森田先生も「どうしたら相手を動かせられるかどうかを考えています」と、臨む上での意識を伝えた。
また、「その他の授業」として、納谷氏が講師を務める授業内容も少しだけ紹介。「アニメ作品におけるプロデューサーとは? 製作委員会とは? といったところから、アフレコマイクの構造など、おふたりの授業とはまた違った角度から学べる授業を展開します」とのこと。さらに、「マネージャー」が行う授業もあるということで、こちらも見逃せない。
後半は終了時間までたっぷりとトークパート。登壇者に対する、来場者からの質問が読み上げられていった。(※敬称略)
―「マウスプロモーション附属俳優養成所」を選んだ理由は?
高橋「実は、最初は声優ではなくラジオのDJになりたかったんです。青森から東京に来たので何かやってみようと思ったんですが、外画が好きで、その頃声優になりたいと思い始めました。一番多くキャスティングされていたのが『マウスプロモーション』だったという、単純な理由です(笑)」
森田「高橋君は最初は『正直無理かな』、と思いましたが(笑)、どんどん良くなってきて『こいつ、面白いな』と思えるようになりました」
五十嵐「自分は元々アニメやゲームの仕事をしたかったのですが、内向的な性格なので、そういう仕事に従事している役者さんが事務所の規模と比べて少ないところ(当時)のほうがチャンスがもらえるかなと思い、を選びました(笑)」
谷「五十嵐さんは最初『大人しいお嬢さんだな』、と思いました。でもそれくらいしゃべられたらもう大丈夫!」
森田「五十嵐君はとてもわがままな生徒で、手が付けられなかったです(笑)。宿題をやってこないんですから」
五十嵐「宿題をやらなくても自分はできると思ってました(苦笑)。でも今はもう反省していますから!」
―養成所で学んでおきたかったことは?
高橋「当時は発声などの基礎的なこともできませんでしたが、教養もなかったですからね。今でも思うのですが、養成所で指摘されたことを、現場でもそのまんま言われてしまうことがあり、もっと考えて目的意識を持ってやっていれば良かったな、と」
五十嵐「仕事をある程度やりはじめたら『あの時学んだのはこういうことなんだな』というのが分かりました」
―では、講師から見て、養成所で学んでおくべきことは?
森田「生徒たちは、口で言うのは達者ですが、いざやってみるとできない。ですから『言うだけでなく、まずやってみろ』、と言いたいですね。経験に勝るメソッドはない、と思うんです。その経験をどのように現場に持っていけるかが大事です」
谷「とにかく『目立つようなことをやってみろ』、と思います。研修生はたくさんいますから、アピールするためには自分の苦手なところに飛び込んでみよう、という気持ちでいて欲しいですね。美少年、美少女だけでなく、いろんな役を演じることになると思うので、それに対しても演技力を磨かなければならないですし、周りと違うことをすることへの勇気も必要だと思います」
―最初に仕事場に行った時の気持ちを教えて下さい。
五十嵐「特に何も考えずに『現場はこういうものなんだな』という感覚でした(笑)。最初は一言のみのセリフを演じる予定だったのですが、現場で突如別の役を振られたんです。私よりも納谷さんをはじめ、周りの方がびくびくしてました(笑)」
高橋「スタジオにはどうやって入ったら? どこに座ればいいんだ? など余計なところで萎縮してしまいました(苦笑)。
最初の仕事は、よりによって一言目だったので、すごく緊張しました」
森田「僕は海外の吹き替えの仕事だったのですが、事前にビデオテープを繰り返し見過ぎてデッキが壊れてしまいました。完璧にしていったのですが『作られた演技ではなく、お前の演技が見たかったんだ!』と怒られました。難しいな、と思いましたね」
谷「私は20歳の時に、受付の看護師さんの役をやりました。その役は楽だったのですが、日本のアニメは基本的に線画を観ながらなので、その後は台本を読み込んでいっています」
森田「僕らの時代はアニメはフィルム画像で、画面には自分の演じている役の名前しか出ないような状態なので、台本をしっかり読んでいないとさっぱりわからないんですよね(苦笑)」
―普段どんなトレーニングをしていますか?
高橋「内転筋を鍛えています!」
森田「ロングブレスで内転筋が鍛えられますよ」
五十嵐「アフレコすると首回りがものすごく凝るので、できるだけリンパを流すようにしています。お風呂でほぐしたりしていますが、あまりやりすぎると熱が出てしまいますので」
森田「でも首のストレッチはやり過ぎるとよくないので、加減に注意してください」
五十嵐「調子の悪い日に録ったゲームの声が、次に好調な時にやっていると前のコンディションの声に合わせるのが大変です。こんなことがないようにしたいですね」
森田「毎朝15分のストレッチは欠かさないです。それと、カラオケには仕事の前日には絶対に行かないです。すごく悪影響を与えますから」
谷「体力をつけるために、バスの停留所の2つ3つなど、とにかく歩けるところは歩きます。声出しですが、小さいころから稽古ごとが好きで、義太夫や浪花節などをやっていました。まあ趣味の域で、何に役に立っているかは分かりませんが(笑)」
―皆さんが声優を目指した理由は?
森田「小学校の頃に教科書の文章を率先して読んでいたのですが、その構図がスタジオと酷似しているんです。その頃から今の仕事に対する意識があったのかな、と」
谷「私は東映の時代劇が好きで、京都の太秦に行ってお姫様を演じてみたかったんです。それが演技をする仕事に就きたいと思った一番の理由ですね」
―印象に残った作品は?
五十嵐「『パパのいうことを聞きなさい!』です。3歳の役をやらせてもらって、この作品で『もっと本気でやろう、もっといろんな作品に出てみたい!』と意識を変えられた作品でした」
高橋「『バイオハザード』というゲームで、30分間叫び続けるという収録をしました。汗が噴き出すし、貧血で倒れそうになりました(苦笑)」
森田「『NARUTO』の長門です。主人公のナルトとの戦いがあったのですが、その際に『後で画をつけますから、二人の芝居をしてください』と言われました。あの時は相当いい芝居ができたと思います」
谷「私も同じく『NARUTO』ですが、あるディレクターの方がいて、なんでもスパッと決断が早いんです。一緒にやっていて楽しかったですね」
こうして約2時間の公演は大盛況のうちに幕を閉じた。次回開催は未定だが、現役声優や講師の生の声をたっぷりと聞けるチャンス! 興味のある方はぜひ参加してみよう。
<Text・Photo/ダンディ佐伯>
●マウスプロモーション 公式サイト
http://www.mausu.net/