厚いベールに包まれたオリジナル劇場アニメに迫る! オリジナル劇場アニメ『KILLTUBE』栗林和明監督 インタビュー

By, 2025年10月24日



『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』など、数々の実写作品を手掛けてきたCHOCOLATE Inc. (以下、チョコレイト)が、初の長編アニメーション作品を制作! オリジナル劇場アニメ『KILLTUBE』が2026年に完成予定だ。

本作は、とある理由で2026年まで江戸時代が続いている日本が舞台。厳しい身分制度のもとで生まれた主人公たちが、「決闘配信」を通じ、頂点を目指す。

昨年公開されたパイロット映像には、3DCGを使った迫力のバトルシーンや美麗な背景など、見どころが満載! 海外での評価も高く、いま最も注目されるオリジナル作品の1つとなっている。
鋭意制作中の本作に関し、チョコレイトの CCO / プランナーで監督を務めた栗林和明氏に話をうかがった。

(インタビュー時期:2025年7月下旬)

―まずはプロジェクトが立ち上がった経緯を教えてください。

栗林和明氏(以下、栗林):チョコレイトはさまざまなコンテンツを作っている企業なのですが、「世界中で長く愛される作品を作りたい」という想いから本プロジェクトが立ち上がりました。その際、高クオリティの作品を実現させるため、大きく2つのことが必要だと考えたのです。

SNS上には日々さまざまな情報があふれていて、流行り廃りも激しいので、「世の中に残る作品を作るためには、持てるアイデアを詰め込めるだけ詰め込んだモノを作ることが必要だ」ということが1つ。

もう1つは、ゼロから作品を作り、世界中に届けるためには、いままでにないやり方をしないといけない。そのためには徹底的に“実験”をするしかない、ということで「業界を横断して人材を集める必要がある」、ということです。
この2点を軸に、プロジェクトを進めていくことになりました。

―プロジェクトが24年に本格的にスタートしましたが、ここまででとくに大変だったことは?

栗林:僕が大変というよりは「仲間たちに大変な思いをさせてしまっている」と思うことのほうが多く……。
僕が監督としての仕事と並行して、多くの「実験」をしようとしていることで、制作における負担が大きくなってしまっていることは自覚しています。
既成概念にとらわれず、さまざまな角度からアイデアを取り入れるということは、一般的なフローを逸脱した制作過程を通っていく、ということにつながりまして。
オリジナル作品を制作する際は「企画の立ち上げ」、「登場人物・物語の決定」……という流れを汲むことが多いと思うのですが、今回のプロジェクトでは、例えば新たなコンセプトアートが制作された場合「じゃあ、キャラクターの性質やストーリーを見直そう」……なんてことを何度も繰り返しているんです。
そのぶん当然時間がかかってしまうし、スタッフの労力も大きくなってしまうので、そこは本当に申し訳ないと思っています。

 

―スタッフの反応はどのようなものだったのでしょう?

栗林:私は元々広告関係の仕事をしていて、アイデアを広げるだけ広げて、そこから収束していく……というやり方で進めていたんです。
ですので、ほかのアニメ作品に関わったことのあるスタッフからは「いつまでアイデアを出しているんですか? これじゃ何も進まないですよ」と厳しく言われてしまうこともありまして……(苦笑)
本プロジェクトの大変さを肌で感じています。

―もし『KILLTUBE』を全13話のアニメとしての制作を考えていたとしたら、さらに難易度が上がりそうですね。

栗林:終盤の12話を作っているときに新たなアイデアが浮かんでしまったら、序盤の物語や設定をいじらないと気が済まない……という事態も考えられますから(苦笑)
そういう意味では「劇場版」として制作するのがベターな形なのかもしれません。

 

―今年7月にアメリカ・ロサンゼルスで開催された、北米最大級の日本アニメ・ポップカルチャーイベント「Anime Expo 2025」では、パネルイベントを開催されました。

栗林:日本のアニメに対する熱量のすごさを感じました。「どの作品が盛り上がっている」、というのがなく、お祭りに参加しているような感覚で楽しんでいたのが印象的でしたね。
パネルイベントの会場は2,000人規模だったのですが「まだまだ情報量が少ない作品なのに、お客さんやメディアは来てくれるのか」と不安でした。でも、開場前から想像以上の人たちが待っていてくださり、講演の最後は「『KILLTUBE』!」コールが巻き起こるほどで。ロサンゼルスに行った甲斐が本当にありましたね。

  

―どのあたりが現地のファンにウケたと思いますか?

栗林:「新しいものを自由に作っている」というスタンスでしょうか? とくにアクションシーンや音楽に新鮮さを感じてくださったようで「すごい作品になる」という言葉が、自信につながりました。

―公式YouTubeチャンネルに上がっている動画のコメントを拝見すると、海外から書き込まれたメッセージも多く見受けられます。

栗林:世界中から応援していただき、制作のモチベーションにつながっています。
ちなみに、日本の場合は「面白い」というお墨付きのある作品がずっと愛されている傾向がありますので、新参者がどこまで通じるのか? 常に考えています。

―ちなみに、制作のうえで参考にした作品はありますか?

栗林:最近入ってくれたスタッフに「サブカル全部盛りですね」と言われたのが、すごく印象に残っていて。
思えば僕らが小さいころから僕らに影響を与えてくれた漫画やゲームが、今回の作品の節々にもインスピレーションを与えてくれていると思います。

ただ、そのなかでも少し違った次元で意識をしている作品がありまして。
1つは『ハリー・ポッター』シリーズです。
IPの持つ世界観が群を抜いていると思っていて。登場するキャラクターは変わっても、世界の理は変わらないと言いますか。
『KILLTUBE』は劇場アニメ1本で完結するものではなくて、映画がすべての始まりとなり、ゲームになったり舞台になったり。みなさんに愛され続けるのが目標なので、『ハリー・ポッター』の壮大な世界観はすごく参考にさせてもらっています。
もう1本は 『スパイダーマン:スパイダーバース』シリーズです。
「新しい演出を創出させたい」という挑戦心が素晴らしいですし、アイデアの密度が尋常じゃないんです。観ている人を楽しませようとしているのがすごく伝わってくるので、そのスタンスもすごく意識しています。

―『KILLTUBE』は現在公開中の 「鋭意開発中映像」も迫力満点ですね。

栗林:僕らが制作中に感じている興奮を、みなさんにもわかちあってもらいたい気持ちで作りました。今後もどんどんアップデートした映像をお見せしていきたいです。

―キャラクターたちが画面狭しと動き回るシーンにどうしても目がいってしまうかと思いますが、物語にもこだわりがあるのでしょうか?

栗林:もちろんです。「王道でありながら、新しい要素を詰め込むことができるのか?」というところは常に追求しています。
実は、脚本には20人ほど関わっているんです。メインキャラクターの骨格を作ってくれたうえで演出家チームや音楽チーム、宣伝チームがアイデアを注入してくれて。それだけだとまとまらないので、脚本家チームがしっかり整えてくれて。そこにまたアイデアをもらって整えて……というのを繰り返しているので、進行管理班を困らせてしまっているのですが(苦笑)、おかげで新鮮なストーリーができたかな、と思っています。

―まだ江戸時代が続いている現代日本という、「if」の世界を舞台にした理由は?

栗林:「妄想遊び」をしている作品なので、視聴者を含めた自分たちがイメージしやすい場所を舞台にしたほうが、作品に没頭しやすいかなと思いまして。
僕は小さいころ、当時ハマっていたゲーム『ファイナルファンタジーⅧ』に出てくる「ガーデン」と呼ばれる、ひとつの大きな町のような学校の形状に心を奪われまして。「見ているだけで妄想が膨らむものを作りたい」という気持ちがわいてきた原点になっています。
例えば「馴染みの深い、渋谷のハチ公やスクランブル交差点は『KILLTUBE』の世界ではどんな見た目になっているんだろう?」みたいな感じで作り上げていきました。

―ここからはキャストについてお伺いします。声優オーディションには栗林監督も立ち会われたと思うのですが、どのような感想をお持ちになりましたか?

栗林:参加者のみなさんが総じていい演技をされるので、すごく悩みました。
武蔵(ムサシ)役の塚田悠衣さんはそのなかでも突き抜けていまして。大声を叫ぶシーンでは、着ていた長袖がべろべろになってしまうくらい握りしめながら演じられていて「やられた!」と思いましたね。
僕自身、アニメの監督を務めるのが初めてですし、失礼かもしれませんが、塚田さんも主演を務めるのは初めてということで、一緒に駆け上がっていってもらえれば……みたいな気持ちで「武蔵をお願いします」とお願いさせていただきました。

 
▲アフレコの様子。

―台本は完成したてで、本格的なアフレコはこれからだと思います。

栗林:本当に魅力的なキャスト陣になりましたし、作品をどのように彩ってくれるのか、すごく楽しみですね。

  

☆劇場アニメ KILLTUBE 108の実験
https://www.killtu.be/#experiment

 

―また栗林監督が、劇場アニメ制作という名の”実験場”として掲げた本作の目玉企画の1つ、「108の実験」。これまでにいろいろと見えてきたところもあると思いますが、いかがでしょう?

栗林:振り返る暇もなく突き進んでいるので、1つ1つを反芻するのは難しいのですが(苦笑)
「02.異分野の演出家8人の総力戦で 演出を考えてもらう」、「06.ゲーム思考でアニメを作ってみる」あたりは、かなり手ごたえを感じています。
おかげさまで演出家のみなさんは、僕が思いつかないようなアイデアをたくさん提案してくれますし、そこに自分が大好きなゲームの要素を何とか反映させられないか? 日々考えながら制作を進めています。
逆に「19.“お店をつくるプロ”に この世界のお店を考えてもらう」といったところは正直手が回っておらず……「制作がある程度落ち着くまで、とりあえず置いておこう」という項目もあります。

本企画で大事なことは、強制的に「108の実験」を実行するために動かざるを得ない状況を作ることだと思っていますので。実は、インタビューの段階ではまだ実験すべてが公開されているわけではないんですね。本作に興味を持ってくれたみなさんからアイデアを募るのも1つの方法だと思っています。

―ファンが作品に介入することができるECサイト「KILLTUBE BACKERS’ STORE」の作成も、「ファンと一緒に作品を作る」というスタンスの一環でしょうか?

栗林:はい。「ファンの方がアニメの世界に入り込むための入り口を作ったらどうなるのか?」、みなさんのリアクションを見るという、これも一種の「実験」ですね。
みなさんの反応を見つつ、金額も調整していければと思います。

―今後の予定についてはどのようにお考えですか?

栗林:現在はSNSの更新が少し滞ってしまっているのですが、これから少しずつ進捗状況などを公開していきたいと思いますので、楽しみにしていただきたいですね。

―最後に、メッセージをお願いします。

栗林:今回生み出される作品はどんな形であれ、未知なものであることは間違いないです。
僕としては歴史を変える気持ちで作っていますので、どのような過程で本作品が生まれていくのか? いまから追いかけてもらえたらうれしいです。
『ハリー・ポッター』シリーズを生み出したJ.K.ローリングさんも、最初はカフェで1人でひっそりと書き始めたと聞きます。僕らもここから少しずつ成長し、いつか大きく羽ばたいていきたいです!

<インタビュアー/ダンディ佐伯・文責(編集)『れポたま!』編集部>

【劇場版概要】

『KILLTUBE』
2026年完成予定

<スタッフ>
企画・監督:栗林和明
ほか

<キャスト>
武蔵:塚田悠衣
菊千代:河西健吾
玲央:佐倉綾音

●『KILLTUBE』公式サイト
https://www.killtu.be/
●『KILLTUBE』公式「X」
@KILLTUBEJP