声優/シンガーソングライター・大塚紗英の第二章が幕開け!『全人類ヒューマノイド』インタビュー(前編)

By, 2023年5月28日



今年3月に自身の“第一章”完結となるEP『ロマンスのはじまり』をリリースしたばかりの声優・シンガーソングライターの大塚紗英。彼女が、“第二章”の幕開けとなる最新曲『全人類ヒューマノイド』のMusic Videoを5月28日(日)に解禁した。
本作は、ストリングスを基調とした荘厳かつポップなサウンドと、「人生は選択の連続」というテーマをSF的世界に昇華させた印象的な歌詞、そしてドラマティックな大塚の歌唱、このすべてが見事に合わさった珠玉の1曲になった。
今回はリリース記念に大塚への超ロングインタビューを慣行。前後編にわたり、『全人類ヒューマノイド』の世界を解体していく。前編は楽曲誕生秘話と歌詞制作についてお送りする。

―『全人類ヒューマノイド』完成、おめでとうございます。正直、ド肝を抜かれる1曲ですね。

大塚紗英さん(以下、大塚):アハハ、ありがとうございます。

―まだ発表されていませんが、配信シングルのジャケットからしてインパクト大です。これ、実際の楽譜ですよね?

大塚:はい、実際にバイオリニストのAyasaさんに弾いてもらった『全人類ヒューマノイド』のストリングスの譜面です。これを選んだのも含めて、何から何までおかしい(笑)

―フリーになり約1年、『ドン・キホーテ・デート』や、『アクアパッツァ』など数々の新曲を作り、そのどれもが新章の始まりを飾るに相応しい曲です。ましてや第一章の終わりとなった楽曲『ロマンスのはじまり』が希望の船出を歌った曲だったのが、第二章の幕開けに深淵を覗くような『全人類ヒューマノイド』を選んだのはなぜでしょう?

大塚:ことの始まりは、『ロマンスのはじまり』のMVを撮った帰りの飛行機の中でした。ロサンゼルスというパワーのある地で撮影し、“ロードムービーっぽい”という変化球を使った後、この次作るMVで今回の映像力に勝る曲はなんだ?と、いろいろと考えたんです。私たちの映像チームは、「次の作品で今を越えなければ解散だ!」という謎の枷(かせ)を嵌(は)めていて(笑)
「『ロマンスのはじまり』の映像とコンセプトに勝ちうる作品はなんだ?」と、なったら『全人類ヒューマノイド』しかないなと、すぐ思いついたんです。

―映像化することを前提にしていたんですね。

大塚:私は“大塚紗英というアーティストの歩み”を、「お話」として考えていて…映画で例え続けると混乱してしまうかもしれませんが、私の第一章は振り返ると「自主映画」の制作期間みたいだったなあって。初期の作品は、今流行っているものとズレているかもしれませんが、その結果キャッチーではないけれど、知る人ぞ知る名作のような映像が作れたのかなって。
では、その段階を経ての第二章はどうか? 「知る人ぞ知る」から、時代性も含め広く世に知られるクオリティの作品を届けていかないと、より大きなストーリーに繋がっていかない。「クオリティを保ちながら、『わかりやすく多くに届く曲』はなんだ?」と、考えたとき『全人類ヒューマノイド』が、一番ビジョンとして描きやすかったんです。

―この曲が生まれた背景について、うかがえますか?

大塚:正直、私この曲を作っていた最中のことを全く覚えてなくて(笑)
完成の日付が2020年2月10日。本当に取り憑かれたかのように書き上げていったんです。
この曲を作り始めるとき、「荒廃していく世界」をテーマにしようとザックリと浮かんでいたんです。このころは謎に「地球は遅かれ早かれ滅びるんだろうな、少なくとも人間は地球では暮らしていけなくなるな」と危惧していて。その滅びの先の選択肢の1つに、将来火星に移住する計画がありますよね。

―「テラフォーミング」ですね。

大塚:その説を基に物語を作ろうと書き進めていって。最終的には、地球に愛着を持って住み続け地球と共に滅んでいくのか? それとも火星への移住を選び違う形へと変化して生き続けていくのか? という、「人生とは選択の連続、その選択の是非」の話に着地しました。
火星へ移住するためには、たぶん普通の体では生きていくのは難しい……それこそヒューマノイドにならないとムリで。よく「肉体に心が宿るから人は人である」、という話がありますよね。つまり、ヒューマノイドになるという選択は、人間的な感情を失うこと。イコール、人への愛着・愛情を捨てていくということでもあって。その選択の是非を恋愛の形で見せていこうと……こう説明すると、ものすごくSF的世界観ですよね。

―漫画や映画、小説など、普段SFには触れないんですか?

大塚:いや、普段は見ません。

―SFに触れず、よくこの設定になり、さらに深堀りしましたね(笑)

大塚:いやあ、本当になぜこうなったか思い出せなくて(笑)
ただ私、「もし愛する人が、どんどん変わっていくとき、その人を愛し続けられるか?」という仮定を昔から持っていて。それがかなり大きく影響したと思うんです。その原因の1つが、長年敬愛するアーティストの植田真梨恵さんへの大きな想いで。

―植田さんへの想い、ですか?

大塚:この曲を書いた日付まで覚えている理由として、この日のお昼ごろに真梨恵さんとの対談企画があったからなんです。私にとっての真梨恵さんは、10代の頃から今日・現在まで、ずっと大好きで常に見続けて影響を受け続けている、もうとてつもない存在なんです。
私が年を重ねるに比例して、真梨恵さんが変わっていく様子も見続けてきたわけです。「変わり続ける真梨恵さんがステキで好きだ!」と思う一方で、自分が好きになったころの真梨恵さんにはもう出会えないのか……という謎の寂しい気持ちもあって。
私、好きすぎる相手ってそうなっちゃうんです。対象への愛が深いと、相手がほんの少し変化するだけでも怖くなりませんか?

―わかります。確固たる自分の想いが、変化によって揺らいでしまうような。

大塚:そうそう。そのファンとしての執着心が、さっきの考え方の大きな要因になっているんじゃないかなって。これ、恋愛関係はモチロン、家族に対してもそう。その人の持つすべてを愛するって難しいものだと思うんです。良し悪しの折り合いをつけながら、それでも愛を捧げていくこともあれば、許せなくなり別れることもある。この曲はその“選択”についての極論を言っているんですよね。

―なるほど……個人的に、完成時期がメジャーデビュー直前ということもあって、この先の自分が変容するのでは?という不安や切迫感が影響していたのかなと思いました。

大塚:そうですかね…デビューまであとひと月という間、「これで失敗したらどうするんだ? 私はこの先どうなるんだ?」と、人生で唯一寝られない日々が続いたぐらい、ものすごく精神的に追い詰められっぱなしだったんです。その切迫感がテーマ、歌詞、音に強く表れたのかなあって。完成したときは「これ以上の曲はそうそう書けないな」と、自分でも大満足だったのを覚えています。

―確か人前での初披露が去年の8月のワンマン。完成から約1年半近く、日の目を浴びなかったのは何か理由があるのでしょうか?

大塚:以前の楽曲制作環境がかなり特殊だったんです。特に『スター街道』の制作は、自分名義のアルバムではありますが曲は自分で選定せず、2ヶ月で100曲ほど書き、その中から制作チームの方が選び、厳選された曲がブラッシュアップされて『スター街道』に収録されるという形だったんです。『全人類ヒューマノイド』もその100曲の中に忍び込ませたのですが、結果は「難しくてわかりづらい」と言われ、落とされてしまって。
落とされた理由もわかるのですが、「これだけ魂込めた曲がダメなのか」と、すごく悲しくなって(苦笑)
そのショックから、「もう一生誰にも聞かすことはない」と封印していたんです。
昨年6月にフリーになり、2ヶ月後にフリー転向後の初の対バンに参加することになって。セットリストを考えていたとき、ふと「いまなら披露しても伝わるかも……」と、歌ってみたんです。

―披露した際の反応はいかがでした?

大塚:披露後「あの曲がすごかった」と、多くの方からたくさんの反応をいただいて。『吸いがら』から4作すべてのMVを監督してくださっている藤田大介監督が観に来てくださって、「(『全人類ヒューマノイド』を聴いたとき)息ができなかった、ライブ終わっても衝撃で拍手できなかった」という感想をくれたんです。歌えば歌うほど、「あの曲はすごい!」という感想が増えていって。そこで「この曲は自信を持って良いんだと!」と、やっとこの曲に対して前向きな気持ちになれたんです。

―大塚さん自身、3年前と比べ成熟したからこそ、『全人類ヒューマノイド』を見事に歌えた部分はあるのかなと。

大塚:そうだと思います。自信作だからこそ妥協できないし、当時の私では納得いく形には結果的にできませんでした。それがこの1年、フリーになり一人で全てをこなしていかなければならない中、技術面やプロデュース面でたくさんの学びや経験を得ることが出来ました。その糧が『全人類ヒューマノイド』に、ものすごく詰められたんです。
今回、携わってくださったアレンジャーさん、演奏者さん、エンジニアさん……全員が超一流のプロフェッショナルで。そのリスペクトしかない人たちによって創り上げられていく過程を間近で見たことによって、より身が引き締まりましたし自分への向き合い方も変わりました。「もっと素晴らしいものを創り上げないと!」と、皆様の熱意に本当にお尻をひっぱたかれましたね(笑)
こうしてたくさんの人の愛に支えられ、大切な曲が最高の形になって届けられる……『全人類ヒューマノイド』に対しては、謎の親心があります。「報われてよかったね」って。

―やりたかったこと・やれなかったこと、紆余曲折を経て成長した証が、この1曲に詰まっている。ひとえに『全人類ヒューマノイド』は「大塚紗英、戦いの記録」ですね。

大塚:はい。この曲はその言葉がぴったり、シックリきますね。
(後編に続く)

<インタビュー/田口俊輔>

【MV情報】
『全人類ヒューマノイド』

原作:大塚紗英

■Music
作詞・作曲:大塚紗英
編曲:椿山日南子
Violin:Ayasa
Cello:堀沢真己

■Movie
主演:大塚紗英
カメラマン:中尾浩嗣

監督:藤田大介

●『全人類ヒューマノイド』MV
https://t.co/UbtSbkIFa5

●大塚紗英 公式サイト
https://www.saeotsuka.com/
●大塚紗英 公式ツイッター
@Sae_Otsuka
●大塚紗英 公式インスタグラム
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