普段は女優業やラジオパーソナリティなど、マルチに活躍中のうえむらちか。2010年に発売された、小説の処女作『ヤヌス』から約2年、2作目となる『灯籠』を発表した。
ある夏の日、故郷の広島で少女・灯(ともり)が正造(しょうぞう)という青年に出会うところから物語は始まる。
本作の内容はもちろん、うえむらさんのパーソナルな部分にも迫った。
―まずは、うえむらさんが作家を目指したきっかけについて教えて下さい。
うえむらちかさん(以下、うえむら):小学校の頃から小説やマンガなど、モノを書くのが好きだったので、たまに賞に応募したりしていました。県のコンクールで佳作をもらったりはしていました。トロフィーをもらって、いまだに家にあります。
高校からは、文芸部に入ったんです。文芸部に入ると周りから「オタク」というイメージがあって、みんなからちょっと敬遠されていたのかも知れません(笑)。部内は、マンガを描いている人がいれば、小説を書いている人もいる、という感じで。私は吹奏楽部と兼部だったのですが、基本的には文芸部に入り浸っていました(笑)。
―文芸部の頃は小説とマンガ、どちらをよく書いていらっしゃいましたか?
うえむら:最初はマンガの方がウエイトが大きかったのですが、文化祭などに合わせて部誌を発行していて、「部誌に小説を載せてみたい!」という気持ちが強くなり、次第に小説の方に力を入れ始めました。
―作品の評判はいかがでした?
うえむら:クラスの男子が部誌を見つけてきて「こんなのあったぜ!」と見せてくるので「最低!」と思いました(笑)。学生時代はみんなそんなものだと思いますけど(笑)。
―処女作『ヤヌス』を出版された時の率直な気持ちを教えて下さい。
うえむら:今までは短編作品は書いていたのですが、長編小説は初めてだったので、形になったのを見て感動しました。30冊くらい買った気がします(笑)。親も「周りの皆さんに配る用」ということでたくさん買ってくれたみたいです。とてもありがたいですね。
―ではここから『灯籠』のお話に入らせていただきたいと思います。
今作は舞台がうえむらさんの地元、ということですが、改めてロケハンなどされたのですか?
うえむら:毎年お墓参りに行っていた場所ですので、改めて行く、ということはなかったのですが、印象に残っている場所、お気に入りの場所を思い出しながら書きました。
8年前に本作のプロットを立てたのですが、その時は写真を撮ったり、ロケハンのようなことはしましたね。
―写真を撮られた、ということですが、その情景を文字にするとなると中々難しいかと思いますが。
うえむら:そうですね。「私がきれいだと思っている風景、思いをどのようにすれば皆さんに伝えられるだろう?」と考えた時に、情景描写には特に気をつけて書くようにしました。
―普段から、語彙を増やすために何か心がけていることはありますか?
うえむら:本を読む時に、印象深かった表現をメモしたりしています。
―私が今回読ませていただいた率直な感想ですが、うえむらさんのプロフィールを知らなければ、『職業・作家』と紹介されても疑問に思わなかったと思います。
うえむら:ありがとうございます。普段の私を知ってくださっているファンの方からしてみれば想像できない雰囲気の作品ではあると思っています。
―作品作りに励んでいる時のうえむらさんは「自分の中のもう独りの私」が活躍しているのでしょうか?
うえむら:お仕事などで、外で人とお話することが多い分、家ではちょっと落ち着いている自分がいますね。落ち込んだり、一人で考え込んだりすることもありますが、そのような時に小説を書いて、その気持ちを消化させたり。一人の時間が結構好きなのかも知れません。
小説だけ書いていても、このような作品は出来なかったと思いますし、逆に演技だけをしていても出来なかった作品だと思います。
―もし、『灯籠』が、世間では著名な「直木賞」や「芥川賞」のような賞を受賞されたら、作家業に専念されますか?
うえむら:映像化してもらって、自分が出演します(笑)!
―ご出演はヒロインの灯としてですか?
うえむら:いえ、ショーコとして出演したいです。灯は演技派の女優さんに演じてもらいたいな、と(笑)。
自分の中では正造も、もちろん灯も、顔がちゃんとあるので、それを「誰に演じてもらいたいか?」と急に言われても、中々想像しづらいところはありますね。
―本の巻末にはご自身が描かれた灯と正造のイラストが掲載されていますね。こちらが元々うえむらさんの想像している二人、ということでしょうか。
うえむら:はい、画力が追いついていませんが(笑)。片山(若子)さんにカバーイラストを描いていただいたのですが、私の描いていた灯そのもののイメージでしたので、この灯に合う女優さんに演じてもらいたいです。
―うえむらさんも演じたいというショーコですが、こちらの人物が誕生したエピソードは?
うえむら:ショーコは清水クンが主役の2話目を作る際に生まれたのですが、大人しめなタイプの登場人物が多かったので、彼らを上回るくらい明るいキャラクターにしようと思い、作りました。
その中には物語を引っ張っていってもらおう、という意図も入っています。
―うえむらさんの中では、登場人物の中で誰が一番気に入っていますか?
うえむら:清水クンですね。灯と正造も結局は報われないのですが、心が通じ合っている部分があります。でも清水クンは最後まで片想いで終わってしまって。こういうタイプの人物は昔から好きなんです。
母親とのエピソードは、「このままではあまりにも可愛そうなので、少しは幸せを味わってもらいたい」という気持ちも込めて入れさせていただきました。
―1話目と2話目の冒頭にある、灯籠にまつわるショートストーリーを入れた意図は?
うえむら:盆灯籠ができたいきさつが諸説あって、その中から全然別のエピソードを2つ選んで入れてみました。時代によっても違う言い伝えがあったり、本作の物語と同じで「色々な解釈があるんだよ」というのを入れたかったんです。
広島以外の方々には馴染みがないかと思いまして、皆さんにも盆灯篭が一目で分かってもらえるようにと今回、自分で作ってみました。
―作中に登場する「Row Row Row Your Boat」という英語の歌は、物語の中でも重要なファクターになっているかと思いましたが、組み入れた理由は?
うえむら:実際にアメリカに住んでいた方から「有名な子守唄があるよ」ということをお聞きして。興味深い歌詞だったので、作中で使ってみました。「こんな内容の曲を子供に歌っていいの?」と思ったりもしましたが(笑)。歌詞を訳すのが大変でした。
―ご自身で訳されたんですか?
うえむら:そうなんです。曲の歌詞ということで、直訳ではないので、本当に最後まで悩みました。
―改めて、本作を執筆する上で、生みの苦しみのようなものはありましたか?
うえむら:すごくありました(笑)。プロットは確かに8年前にあったのですが、『ヤヌス』を執筆した後に「さて次は何を題材に書こうかな」と思った時、広島の話を書きたいと思い、改めて洗いなおしてみたというところがあったので、そこからまた色々と悩みました。
―地元のお話を書く、ということは、描きやすい反面、プレッシャーもあったのでは?
うえむら:そうですね、地元の人から「こんなんじゃないよ!」と思われたら悲しいですから(苦笑)。住んでいると何もない町だな、と思うのですが、一度離れると戻りたくないという部分はあります。
―作品の冒頭が灯が乗っている新幹線の車内から始まったり、後書きでも新幹線の中で構想を練っていた、というお話がありましたが、灯と自分を重ね合わせた部分もあったのですか?
うえむら:実家に帰るときなど、ずっと新幹線の車内にパソコンを持ち込んで小説を書いてました(笑)。昔ほどではなくなりましたが、広島までは東京からだと結構な時間がかかりますから。
―結局、灯と正造は幸せな最後を迎えられたと思いますか?
うえむら:正造は灯と出会えたことで、自分がかみ締めている幸せを感じられたと思います。灯も正造と出会ったことで人生を変えることができたし、二人出会えたことが幸せだったんじゃないかな、と思います。
―最後に、ファンの皆さんに一言お願いします。
うえむら:正造を通して見た景色は、私が東京に来て、少し離れてしまったところから見た広島の良さや、田舎の雰囲気がきれいだな、という思いから描(えが)いたものです。
「自分の実家に久しぶりに戻ってみようかな」という気持ちになっていただけるように書いていますので、懐かしい気持ちになって読んで欲しいです。
また、1話目の『灯籠』を読んでから2話目の『ララバイ』を読むと、1話目がちょっと違う意味合いを持ったお話に見えてくると思いますので、また1話目から読み返していただき、より深くたのしんでいただければ幸いです。よろしくお願いします!
これから夏本番を迎える、ということで、本作との季節感はピッタリ。皆さんにも本書を是非読んでみて欲しい。
<Text・Photo/ダンディ佐伯>
【書籍概要】
『灯籠』 うえむらちか著
2012年6月8日(金)発売
『ハヤカワ文庫JA』刊
定価651円(税込)*本体価格620円
【あらすじ】
広島に過ごす孤独な少女・灯(ともり)は、盆灯籠が似合う夏の日に、正造と名乗る青年と出会う。正造は、灯の心のなかに、いつの間にか消えないあかりを灯していた。少しずつ灯は、正造に心を開きはじめる。
しかし、正造は、お盆の時期にしか会うことができないのだという。そんな正造との逢瀬が、いつしか灯の生きる糧となっていったが……。
(うえむら ちか プロフィール)
1985年、広島県生まれ。
CM「アイフル」、ドラマ「ライフ」、映画「白椿」「ももドラ」出演や、
ラジオパーソナリティ、4コマ漫画連載など女優、タレントとしてマルチに活躍中。
2010年4月には『ヤヌス』で小説家デビューを果たす。
【プレゼント】
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