囚人Pが描き出す、壮大な悲劇の物語が始まる! 『カタストロフの夢 -第一章-』公開直前スペシャルインタビュー

By, 2011年8月8日



囚人Pが描き出す、壮大な悲劇の物語が始まる! 『カタストロフの夢 -第一章-』公開直前スペシャルインタビュー

ボーカロイドを用いて「囚人」と「紙飛行機」など、多数の楽曲を制作し、そのメロディの良さはもちろんのこと、独特の歌詞の世界観やボーカロイドの調教の上手さで絶大な人気を誇る囚人P。
その囚人Pが監修・シナリオ・音楽を担当し、ニコニコ動画の歌ってみたカテゴリで人気の歌い手たちをキャストに大胆に起用し、壮大な悲劇サウンドノベルをこの夏発表する。
『カタストロフの夢』と題された本作では、既に公開されているPVの序文に、「―最初に言おう、この物語はバットエンドである、と。―」と始まっており、一味も二味も違ったストーリー展開となりそうだ。

れポたま!では、その囚人Pさんと、『カタストロフの夢』登場人物、皇帝アルス・ノヴァⅡ世役の龍波しゅういちさんに直撃インタビューをしてきた。

◆昔から物語を作るのが好きだった囚人Pさん。演者との橋渡し役の龍波さん

―─まずは、簡単な自己紹介をお願いします。

囚人P:ニコニコ動画などで曲を作っている囚人Pと申します。基本的にニコニコ動画では物語曲を中心に作っています。昔から物語を作るのが好きだったのですが、ただ自分は絵を描けないし、動画も作れない。では、物語を表現するのに音楽しかないじゃないかと思い、楽曲で物語を表現しています。

龍波:俳優をやっております龍波しゅういちと申します。今回とある方のご紹介から囚人Pの作るゲームの皇帝アルス・ノヴァⅡ世というキャラクターで出演をさせていただくことになりました。囚人Pと色々話してみて、ウマが合うというか囚人Pのサポートをしてあげたいなと思い、裏でも様々に暗躍しております(笑)。

―─暗躍ですか(笑)。龍波さんは、具体的にはどのようなことをされているのですか?

龍波:例えば、演技の演出などです。囚人Pが演者さんにお芝居の指示をする際に、サポートなどもしています。囚人Pと演者さんの橋渡しみたいな感じでしょうか。自分は芝居を仕事にしている人間ですので、そういうところも役立ててもらっています。

囚人P:本当に助かっています。自分の言葉は抽象的なので、どうしてもフィーリングで話しちゃうんですよ(笑)。

龍波:それを僕が日本語に変換して伝えています(笑)。

―─龍波さんがいることで囚人Pと演者さんをうまく繋いでいるわけですね。

龍波:演技経験は一番長いと思いますので、せっかくだから出演するだけではなく、サポートもしっかりしていこうかなと。

◆歌ってみた系の人たちの演技の素晴らしさ。囚人Pの人徳

―─今回、ニコニコ動画の歌ってみたカテゴリの人たちを声優として起用してみて、どのような印象を受けましたか?

囚人P:もともと歌ってみたの中でも、絶対に演技できないという人には声をかけてないんです。この企画が発足した時に、ちょうど自分とユニットを組んでいた96猫さんに最初に声をかけました。
96猫さんはとても演技ができるんですよ。ニコ生で声マネとかもしているので、芸達者で。ですので、まず96猫さんに主役級を任せたいということで決まり、次に96猫さんの友達に声をかけ、オーディションをやって、その中で一番演技ができそうでキャラクターに合ってる人たちを選びました。
少年Tさんは舞台系の演技をかじったことがあったり、こげ犬さんは声優系の学校に通っていたこともあったりと、何かしら演技に関わっている方ばかりですので、その辺りはしっかりしていると思います。「歌ってみた系」だから、どうせ演技はできないだろうと思ってる方がいるとしたら、それは偏見だと思います。龍波さんから見たらそうではないかもしれませんが(笑)。

龍波:囚人Pの今言ったことは本当に当たっていて。僕も最初は歌をメインでやっている人たちを集めたということで若干不安だったんですが、実際にレコーディングをしたものを聞いた時に、「この人はこういうお芝居もできるのか!」といったような引き出しを持ってる方がたくさんいらっしゃったんです。ですので、これだけの人材をよく集めることができたなと思いましたね。そこは囚人Pのカリスマ性かもしれません。

囚人P:カリスマかどうか分からないですけど、出会いには長けましたね。このゲーム、実質的な制作期間が6ヶ月くらいなのですが、クオリティ的には会社が1、2年かけて作るレベルになってると思うんですよ。これを同人で6ヶ月でやれたというのは、本当に人のめぐり合いには恵まれたと思っております。
龍波さんに出会ったのも偶然だったのにも関わらず役にぴったりでしたし、ほかのキャストもすばらしかったし、何よりプログラマーと出会ったのも大事でした。その人がいなかったら、とてもプログラムが間に合わなかったです。それほど有能な方で。このような素晴らしい出会いがなかったら、きっと2年後公開とかになっていたと思います(笑)。

龍波:今回のプロジェクトは、まさしく囚人Pが集めた人たちにものすごく力がありました。しかし、逆を返すと囚人Pがそれだけの人を集められる人だったと思うんですよ。人のめぐり合わせの強運の持ち主であり、それはきっと彼の人格だったり人脈からきてるところがあるのではないかなと思います。僕が囚人Pにほれ込んでいるところはそこが一つあるんですよ。人を集める能力に長けている、周りの人が囚人Pをサポートしてあげたいという目で見ているというのは、彼の長所というか良いところなのではないかと思います。ずるいと思えるほどのレベルです(笑)。

◆龍波さんは頼れる兄貴的存在

―─囚人Pさんから見た龍波さんの印象もお願いします。

囚人P:最初にネットでアーティスト写真を見た時の印象はとても怖くて、超緊張して会いに行って(笑)。そしたら、僕の作品を以前から見ていてくださっていたんですよ。

龍波:僕は彼の「囚人」と「紙飛行機」という動画作品を見て、号泣したことがありまして。その感動をずっと心に持っておりました。

囚人P:それを聞いた時に、これは運命だと思いましたね。それに直接お会いしたらすごく良い人だったし(笑)。紹介してくれた方も、「良い人だから写真に騙されちゃだめだよ」って言ってました。

龍波:アーティスト写真変えようかな(笑)。

囚人P:本当に良い方で。なかなかこれだけ人として筋が通っている方には会えないというか。人徳が素晴らしいというのはこちらから言いたいです。他にも言うことはしっかり言うし、言わなくていいことはしっかり言わないしで。ダメ出しする時もいらだちから来るダメ出しではなく、優しさがそこにはあるんです。素晴らしいです。まず人間として憧れますよね。企画の表から裏まで助けていただいて、むしろ龍波さんいなかったら回っていなかったんじゃないかという局面が多々ありました。キャストたちも龍波さんに感謝してました。

龍波:あまり実感がないんだけどなぁ(笑)。

囚人P:ぜひこれからもついていきますよ!

龍波:いやいやおれがついていきたいから(笑)。

―─では囚人Pさんから見た龍波さんは頼れる兄貴的な?

囚人P:まさにそれです!

◆ゲームジャンルはサウンドノベルフルボイスゲーム。イラストも必見!

―─では、ゲームについてお聞きします。まず、どういったシステムのゲームになるのでしょうか?

囚人P:ジャンルは、サウンドノベルフルボイスゲームに分類されます。小説を、イラストと背景で世界観を作り上げ、音楽で盛り上げて、そこにフルボイスでキャラクターたちに命を吹き込んでいくみたいな。いわば至高の小説じゃないかと思います。
アニメとは違い、自分で進められる良さ、それと文字でしか伝わらない表現もあるじゃないですか。それを視覚的にも楽しめる。そういうゲームになります。また、アニメーションのシーンもちょこっと入っていたりと、色んな楽しみ方の切り口があります。
ただ、ノベルゲームなどにある選択肢はありません。選択肢を作らなかったのは、分岐を作るということは世界観がバラけてしまうので、一つの極太の世界観を創りあげたいなと。ルート分岐はないけど、その変わりに複線はいっぱい張ろうと。何度プレイしても楽しめるようにしてあります。

―─07th Expantionさんの『ひぐらしのなく頃に』にボイスが付くようなイメージでしょうか?

囚人P:形式としてはそうなります。そこに、アニメーションが要所要所に入ったりしてキャラが動きますね。イラストもすごくきれいなんですよ。人物絵師が一人、背景絵師が一人で二人のタッグでやってくださっています。
背景に関して言えば、特に廊下のイラストなどは写真と見間違うくらいです。全部世界を創り上げています。この背景は、supercellさんのジャケットイラストを描いたこともあるマクーさんという方に参加していただいてます。ものすごく作業が早い方でして、マクーさんがいらっしゃらなかったからイラストは終わってませんでした。このクオリティをこの速さで上げられる人は、この界隈でマクーさんしかいらっしゃらないんじゃないかと思います。
人物はしーちゃんさんという方に線画まで描いてもらって、着色はマクーさんにやってもらっているので違和感がないんですよ。背景から浮くということがないです。

龍波:アニメーションのワンシーンを切り取ったかのように映像になじんでるんですよね。

囚人P:この方には武器デザインも頼んでいます。その設定が細かいんです。ここがこう動いてこういう武器ですっていう一生どこにも出ないであろう設定が色々あって。フィギュアをにらんでるんじゃないのかみたいな(笑)。物語には関係ない裏設定はいっぱいあります。そのあたりを深読みしてもらっても面白いですね。

◆主人公を置かないことにより物語を多角的に楽しめる作品

―─注目のストーリーの方はどんな感じなんでしょうか?

囚人P:舞台は見ての通り中世ファンタジーなんですけど、剣と魔法じゃないんです。チートっぽいものはあるのですが、魔法はないんです。世界観は「囚人」と「紙飛行機」から来ています。また、物語に主人公を置かないようにしています。リックスとラックスという兄弟は一応主役格ではあるんですが、あくまで主役格で。
主人公を置いてしまうと、価値観が統一されちゃうんですよね。要は、主人公は正義でほかは悪になってしまうわけですよ。主人公は悪って文字で書いても、結局はそれが正義になっている場合が多いじゃないですか。だったら主人公を置かないで、色々な方向からドラマチックに展開していった方が面白いんじゃないかなと。
それに悲劇を題材に主人公作ると、その人の悲劇で終わってしまうんですよね。「おれは悲劇のヒーローだった」というナルシスト的展開で終わってしまうというか。一つの価値観で固定したくないっていうのはありました。

龍波:物語自体は一つの物語なんですが、今回登場人物がとても多いんです。一つの事象があったとしても10人が10人分の思想で動くんです。とある人物から見ると悲劇のことが、とある人物から見たら予定調和でしかなかったりとか。とある人物から見るとラッキーだったことが、とある人物から見ると不幸なことだったりとか。色んな事象を色んな方向から見ると色んな疑似体験ができる、そういう物語です。ですので、実際、このシナリオはものすごく長いんですよ。でも、読み始めると最後まで一気にいっちゃうんですよね、次どうなるんだろうって。第一章で既に、色々なことが起こり、色々な考えが詰め込まれており、さらに色々な悲劇がそこにあるので、それら全てをユーザーさんには楽しんでいただきたいです。そこがこのゲームの魅力なのではないかなと思います。読めば読むほど味が出てくるというか、最初分からなかったことも、次に読んでみた時には「こういうことなのかな?」とか解釈できたり、伏線がたくさんちりばめられています。囚人Pの頭の中には世界が詰まってるんですよ。深いです。

囚人P:どうしても複雑になりますよね。キャラクターたちが勝手に歩きだすので。

龍波:このお話は、誰一人として同じ考えをしている者がいないというところにリアリティーを感じます。個性がちゃんと立ってるというか。それぞれがそれぞれの人生をこの物語の中で生きているんです。ドラマチックです。

―─構想にはどれくらいかかりましたか?

囚人P:「囚人」と「紙飛行機」を作り終えた段階で、時代背景ができました。そのれから迫害理由とかが一気に膨れ上がった時に揃いましたね。一週間くらい頭の中で勝手に走らせたら、気が付いたら登場人物がいっぱい出てきて、みんなが勝手な考え持ち始めて。数式みたいに一つ動いたらばーっと動いていった感じです。ですので、構想にはそんなかかってないです。

―─それはすごい!

龍波:びっくりしたことがひとつありまして。セリフの収録をした際に、囚人Pに「この人ってどういう考えで動いてるの?」みたいなことを聞いたことがあったんです。そしたら、囚人Pは第一章のはるか先の話をし始めるんです。「この人はこの後こうなるから。それは実はこういう道筋があってこういう歴史を刻んでいくんですよ。あくまでこれはその伏線でしかないんですよ」と。あたかもそれらを見てきたかのようにすらすらと饒舌に語り始めるんですね。
この世界が彼の頭の中で完成してるんだなと改めて実感しました。頭の中に歴史があるんですよ。書物って勝者の歴史じゃないですか。でも彼の頭の中には敗者や名も知れぬ人の歴史まで詰まってるんです。

囚人P:そんなすごくないですよ(笑)。

龍波:いえいえ、普通の人ではできないですよ。

囚人P:もともと第一章は2時間くらいの小説量の長さだったんですが、どんどん要素が増えて、平読みで6時間超えくらいになりました。ボイスが入るので、6時間では終わらないと思いますが。プロローグの意味合いを込めての第一章なので、第二章、第三章ではもっと厚くなると思います。

◆音楽は世界観に合わせて説得力のあるクラシカルな雰囲気

―─音楽も囚人Pさんが担当されていますが、どういう感じになっていますか?

囚人P:ニコニコ動画では悲しい曲ばかりでしたが、悲劇とは言え、全部暗いとメリハリがないのでそこは気をつけています。世界観に合った、クラシックとかオーケストラっぽい曲が多いです。

龍波:僕はまだ全部は聴いてないのですが、系統としてはクラシカルであり、どこか物寂しげな雰囲気がありつつ、表面上ではなくて心の芯まで響いてくる。まったく日常ではないんだけども私たちになじみのある感じになってますよね。
収容所なんて日本にはないじゃないですか。迫害された人たちがここに入ってるなんてことはありえないんですが、それをありえるかもしれないって思わせてくれるものが彼の曲にはあります。今回の作品でもそういう曲が展開されていくんだろうなというのはわかります。

囚人P:クライマックスシーンの音楽は作っていて楽しかったですね。自分の書いたシナリオと世界に自分で音を吹き込めるっていう、これぞ自分得な企画でした(笑)。

―─お話をうかがっているだけでも、クリエイター気質が伝わってきますね。

龍波:そうですね、社会的なことはまるでダメ(笑)。囚人Pは、とにかくそういうところは不器用です。ですが、クリエイトすることに関しては誰よりも長けている。ですので、足りないところは周りの人がサポートしていくと。周りも彼のそういうところが好きだからやってるということが多いと思います。音楽にも、彼のそういった良さがにじみ出ていると思いますね。ひきつける力があります。

◆様々な楽器をこなしてきた囚人Pさん。ただし、ボーカロイドを知ったのは意外と最近!?

―─では、囚人Pさんの音楽的なルーツを教えてください。

囚人P:僕はもともと両親が音楽をやっていたので、小さい頃から音楽は好き、というか日常にごく普通にありふれていて。子供の時からライブなどに引っ張り出されていました。
ずっとピアノをやっていて、中学から吹奏楽をやって、高校では軽音でドラムをやって。そこまでやると全部の楽器をやりたくなって大学ではバイオリンもやらせていただきました。
色々な楽器をやってみましたが、ピアノが基本ですね。高校の時にバンドはやっていましたが、もともとバンド自体はそんな好きじゃなかったんですよ。やりたいことがあっても一人じゃできないですし。バンドは、めぐり合わせというか同じ音楽性を共有しなきゃいけない。それって稀有じゃないですか。能力以前に音楽性の違いというか。
その時にDTMというのを知りましたね。自分だけで完結できるものをと思い、始めたのがきっかけです。その時に楽器屋で鏡音リン・レンが発売された事を知りまして。ミクの時はまだ知らなかったんです。二つ入ってる方がお得かもということでリンレンを買いました(笑)。
初めは、半年くらいで挫折したんですけど、友人から「ネットでボーカロイドが流行ってるらしいよ」と聞いて、めっちゃ感激して頑張って作ったのが「囚人」と「紙飛行機」だったんですよ。あの時にギアが入った気がしましたね。音楽に物語性を持たせるという、動画で一つのものを作り上げていくすごさにワクワクしました。そこから一気にDTMはまって勉強しました。「囚人」と「紙飛行機」は動画以外は自分で作りました。

―─最後に。この作品を待ってるファンへ一言メッセージをお願いします。

龍波 この『カタストロフの夢』は、キャストも豪華で音楽もすばらしく、物語も非常に深い作品です。同人の歴史では近年まれに見る大作になるのではないかと思っていますので、今回の第一章、みなさんにぜひ楽しんでいただきたいなと思います。お見逃しなく!

囚人P ゲームは同人ジャンルの中でも一番色々な人が携われるものだと思っています。音楽であり、イラストであり、声であり、プログラムでありと。そういったありとあらゆるプロフェッショナルが集えるすごい場だと思うんですよね。
今回はその場をハイエンドで生かしきった作品になったんじゃないかなと思います。軽いものだと思ってほしくはないです。携わってる人が本気で魂込めて作りましたので、ぜひ見てほしいです。よろしくお願いします!

―─ありがとうございました。

<Text・Photo/ねりな>

【作品情報】
『カタストロフの夢 -第一章-』
ジャンル:中世悲劇系サウンドノベルゲーム
頒布開始:コミックマーケット80 2日目(8月13日(土)) A52a
監修・シナリオ・音楽:囚人P
動画:三重の人
ゲーム制作キャスト:特設サイトにて公開中!
サークル:囚人ファミリー

数量限定通販予約開始!JOYSOUND&とらのあなだけの限定特典も!

『カタストロフの夢』公式サイト:
http://catayume.com/