作品の裏話が続々!『たまこラブストーリー』スタッフ舞台挨拶

By, 2014年6月7日



公開から一ヶ月を経過した『たまこラブストーリー』、その人気を祝してスタッフ陣による舞台挨拶が5月30日、新宿ピカデリーで行われた。登壇者は監督の山田尚子氏、演出の小川太一氏、プロデューサーの瀬波里梨氏。

この日の舞台挨拶は、大ヒット記念として開かれたもので、当初は予定になかった、とのこと。来場者の中には、初めて『たまこラブストーリー』を見る方から20回見た方までいて、3人もびっくり。そんなリピーターに嬉しいお知らせとして、来場者特典の第四弾のポストカードが公開。その製作の経緯が明かされた。

その経緯とはまず、山田氏のもとに瀬波氏から初期イメージの提出が電話で求められ、山田氏からは3種類のイメージ画が提出される。そのうちのひとつ、たまこがバトンを高く放り投げているイメージ画を、劇場配布の第一弾フライヤーに使用して、ほかの二つは「公開のときにいい機会があれば」とお蔵入りになっていたという。それが今回大ヒット御礼として山田氏のメッセージ入りでポストカードとして陽の目を見た形になる。

そして以下、白熱のトークショーの様子をお伝えする。

――出来上がった作品を見ての感想。

山田:たまこともち蔵と、あとみどりとかんなと詩織と、ま、あんこも。みんな少しずつちゃんと成長する、一歩踏み出すというフィルムを作れたんじゃないかな。

―― 一番感動したシーンは?

山田:もち蔵が告白する川のシーンなんですけど、ずーーーっと時間を追って色が少しずつ変わっていってるんですけど。パッて飛び石の引きの絵になる瞬間が綺麗だなと。「あっ」って思いました。すごく望遠の絵なんですけど、なんかうまくいってるなって思いました。

小川:狙ったとおりでした?

山田:狙ったとおり。すごく小さい望遠のカメラの揺れをつけてくれてはったりとか。すごいですよね。巧みの技で。撮影スタッフの人が。

小川:技術力ですね。

山田:そうそうそうそう。すごいマニアックなサイズ感でつけてくださった。おっきい画面で見ると、手ぶれさせすぎると「おえー」ってなってしまう人がいるかもしれないので。今回撮影監督がその辺すごく厳しくチェックしてはって。なのでいい感じになってるんじゃないかなと思ってます。

小川:作った側なので客観的に見れなかったというか。やっぱあって。まあでも今は除々に、いい作品ができたなっていう、達成感を感じている真っ最中です。

山田:劇場に見にいかはりました?。

小川:見に行きたかったんですけど……。

山田:まだやってます。大丈夫です。早退したらいけます(笑)。

難波:出来上がる直前とかに微妙に出来上がってない状態のものを何回も見るじゃないですか。なので小川さんと同じで客観的に見れなくなってしまってる部分もありつつ。「これは面白い、いける、うっ、はっ、いや!」みたいなところもありつつ。

山田:プロデューサーっぽいですね。

難波:そうなんです。……そうなんですって(笑)。でもあれですね、そういう微妙に違う状態のものを何回も見ながら試写会を経て、映画館では二回見させていただきまして。見るたびに視点が変わるというか。今回はここだなみたいな。

小川:毎回見どころが変わっていく。

難波:そうですね。「こう見るぞ」とか思って行くんですけど、全然違った見方を結果的にしてたりして。

山田:なんかいつも記憶消して見たいって言ってましたよね。

難波:そうなんです。一切の記憶を消去して新鮮な気持ちで見たいなって。

――あらためて「たまこラブストーリー」が成り立った経緯・企画意図を伺いたいと思います。なぜそもそも今回ラブストーリーを映画で描いたのかお話いただけますか?

難波:映画の話が出る以前、TV(シリーズを)やっている中、監督と話をしてる中で「たまこを掘り下げて描きたい」って話は聞いてまして。それを描くんだったら、映画しかないかなって。

山田:すごく嬉しかったです。どういう形か分からなくて。OVAかもしれないとか、そういうのがあって。

難波:監督が描きたいところもはっきりしていた。それはスクリーンで見たら、いい青春映画になるんじゃないかなって。まず思いました。もともと『たまこまーけっと』の持ってる世界観だったりポテンシャルと、このスタッフであればというところを考えたときにもう他の選択肢はなかったですね。

難波:その時点ではラブストーリーやるって話ではなかった

山田:「たまことなにか」ということで話を考えてたんですよね。「たまことひなこさん」とか。「たまこと豆大」とか「たまこと学校」「たまこと恋愛」みたいないくつかの中で、何が一番いいのかなって。いろんな案が出ながら結局その、たまこが恋愛をするような内容にいってしまうというか。

難波:比重は置いておいたとしても、絶対恋愛の要素は入ってきてましたね。プロットを組み立てる前の、アイデア出しの段階で。

山田:どのような形でっていう(笑)。

――それでもち蔵に至ったわけですよね。

難波:最初から恋愛になるともち蔵一択な感じで。

山田:豆大ともち蔵は外したくなくなかった。

小川:一番おいしいところですよ。豆大好きとしては。

難波:最初に、たまこの心情を掘り下げてって話をして。聞いてて監督が一番やりたいんだなって思ってたトコはお母さんでしたね。それは最初から言ってたなって。

山田:そうですね。ホントに最初のプロットはそうでしたね。

難波:そっちが中心ぐらいの。

山田:それをどう支えていくか、みたいな。感じで持っていければいいかなと思ったんですけど。

難波:今のたまこがいる経緯みたいのを掘り下げていくと、やっぱりそこに行き着くっていう。

――ちゃんとそれも含められた?

山田:そうですね。もっと等身大でっていう。ちゃんと共感するものが多くあるようなトコロを探さないとねっていう。

小川:ひなこのことを思い出すシーンを自分で演出しながら、ジンジンきながら(笑)。「そっか! そういうことか!」とかって。自分なりの答えを納得しながら演出させてもらいました。

――小川さんは「ラブストーリー」って聞いたとき構えたりしました?

小川:正直構えました(笑)。ド直球だったですよね。だからぶっちゃけてしまうと不満を覚えていたというか。僕自身ラブストーリーとか好きなほうなんですよ。ただ一般的なトコロで言うと近年どっちかって言うと斜に構えた……

難波:ド直球なものが少ないってみたいな?

小川:そうそうそう。なので(視聴者に)受け止められるかな、っていうのは、マーケティングっていうとヤらしいですけど(笑)。純粋に面白いものをつくる上で、そういうトコロも考えて演出したほうがいいのかどうか、すごい悩みましたね。

難波:ストレートに行っちゃっていいのか、演出上で。

小川:でも、やっぱりこれはここまできたら絶対直球でいったほうがいいなっていう覚悟を決めて、僕も演出させてもらいました。

山田:いろいろ不安、あったと思うんですよ。コンテが少しずつ上がってくるとか。先が分からないとか。

難波:(笑)。いろいろな意味でのドキドキ感はありますけど。

山田:たまこのコンテがこない。どういう風に舵切っていくんかなって思いながらやってたと思うんですよね。

小川:それはそれで楽しくもありました。「今日はどこが上がってくるのか」みたいな。シナリオは先に上がっているので読むことは出来るんです。それを山田さんがどうコンテを切ってくるか。

難波:みんなそうですよね。早く読ませろでしたよね。

――製作の話になったので。製作肯定で一番大変だった、産みの苦しみの部分とかは?

山田:シナリオ段階からそうなんですけど、たまこをどうあつかっていくかってトコロでしたかね。公式ホームページでも(インタビューで)言ってるんですけど、なかなかたまこのシーンが描き出せないところがあって、吉田(玲子:脚本)さんとも話し合いを重ねた部分で。なのでそこですかね。たまこが告白をされて走り出してからは自分も走れたような。コンテマンとしてカメラマンとして走れたかなっていうトコロはありました。

難波:ホントにたまこのところ抜けてコンテ上がってきてましたね。

山田:ゴッソリ抜けてね(笑)。

難波:もち蔵がよく上がってくるんですよ。

山田:そう、なんか気持ちがよくわかるんです。で、もち蔵・たまこ・もち蔵・たまこってシーンのシークエンスが挟まって、ミルフィーユのようなシナリオやったんで、先にもち蔵がぐんぐん進んで……。でもたまこもずっと追っていかないといけないからあんまりバラバラにも上げられないし、と思って。

小川:いや、でもそうですよね。、たまこ難しいですよね。今までのたまこから考えて。

山田:よう頑張ってくれましたよね。

小川:ありがとうございます(笑)。

難波:乙女を解放したんですね。小川さんの中の乙女を。

小川:目覚めちゃいました。

――小川さんは監督に強く要望された部分とかありました?

小川:そうっすね。なにげに、そんなに打ち合わせしてないんですよね。いい意味で。

山田:してないのかな?

小川:なんていうか……「みなまで言うな」みたいな。感じがあったじゃないですか。

難波:「感じろ」と。

山田:言葉で伝えようと頑張ったつもりだったんですけどね。……足りんかったか。あの、でもたまにあるんですよ。堀口(悠紀子:キャラクターデザイン)さんもそうなんですけど、小川さんもちゃんとその、感じ取ってくれる。見えるタイプの人なんで。

小川:いや、下手にっていうとアレですけど、すごい言われるよりか、広げてったほうが。山田さんって演出の時もそうですけど、素材を活かす・原画さんの意思を尊重する、そういうタイプだと思っていて。だから、そういうところが上手いなと思ってて。

山田:とんでもございません。

――他にもエピソードがあれば。

山田:ちょっとなんかカッコイイのあったと思うんですけど!自分から言うのもなんですけど(笑)。「レイアウトの視線誘導とか大事だよな」とか。そういうやりとりしたと思うんです。

小川:あー、そうですね(笑)。ありましたありました。具体的なトコロで言うとすごく最初に印象的に山田さんから入ってきたのは「生っぽさ」。

山田:ほう。

小川:「ほう」って。超俺意識してやりましたよ(笑)。あと「望遠」というかレンズ感覚ですね。望遠に限らず。だからちゃんとカメラで捕らえたカメラワークとか。そういうトコロですね。すごい言われました。

山田:色んな種類の演出さんいはるじゃないですか。小川さんって演出の方向性というか感覚が、私とそんなに遠くないと。なので、言葉多くなくても伝わる感じがあります。

難波:途中から、山田監督のコンテを小川さんが演出されるっていうだけで「大丈夫だろう」みたいな。

山田:(小川さんを演出に起用したのは)瀬波さんの差し金ですか(笑)?

難波:差し金とかないですけど、班編成、たまこ班っていうたまこをずっとメインでやっている原画さん演出さん作家さんの、その辺はちょっとありますよね。意図するところが。

山田:そうなんだろうなと。導かれるようにして、小川さんが。

難波:小川さん話がいってるもんだと思ったら「演出、僕なんですか?」みたいな。いってる前提で話しちゃったことがありましたね。

山田:すごいキョトンとしてた。

小川:僕も映画っていうのは原画としては参加させてもらったことはあったんですけど、演出としては初めてのまだまだペーペーなので。そこへ(話が)きて「えっ?」っていう感じですよね。「僕なんぞが?」っていう。

難波:またまた(笑)。

山田:志の高い方なので。すごく、よかったなあ。

小川:ありがとうございます。

――小川さんに質問です。『たまこラブストーリー』をやって一番嬉しかった思い出はなんですか?

小川:いろいろありますけど、一番は映画の話が来た時かな。山田さんからオファーっていう形で来たときが一番嬉しかったかもしれないですね。

山田:よかったです。

小川:ごめんなさい内容的な部分じゃなくて。

山田:小川さん的にも忙しい時期やったので受けてもらえるかなって心配してたんです。

難波:どうやって伝えるかって結構……(笑)。でもポロっと言っちゃってたからアレって。

山田:意外に知っててびっくり。

小川:ちょろちょろ聞こえて話が。

山田:聞こえてくる!(笑)。

小川:正式なオファーなのかどうなのか。僕から行くのもどうなのかみたいなところで、出方をうかがって。みたいな感じで「ありがとうございます」みたいな。

難波:じゃあ結局ぬるっと決まったって感じ。

山田:ええ、気づいたら顔合わせやったみたいな。

――最後にご挨拶をいただければ。

難波:あっという間で、言おうと思ってたことを言えてなかったんですけど。ホラ、監督が狩猟に出た話をしたかったんですけど。コンテ入られる前に「ちょっと旅に出てきます」って言って。

山田:山篭りしてくるって言って、ホントに山に篭ってきて。

難波:滝に打たれたっていう(笑)。

山田:打たれてきました(笑)。あのー、岩に頭をつけてワーって打たれるんですけど。すごいホントに山の中で、毎日毎日トカゲが鳴いてて怖くて怖くて。トカゲの鳴き声なんて聞いたことないでしょ? すごいびっくりした。いいトコでした(笑)。

難波:帰ってきてからの仕事っぷりがとても素晴らしかったから、必要な時間だったんだなって。

山田:あっ、だからそんなに言うんですね。なんかよく言われるんですよ。「行ってよかったですね」って。

難波:えっ、だってあそこけっこう、ね?シナリオ上がってくるような段階で、今後どうしていけるだろうっていう。

山田:大変な時期でしたね。

難波:それは山で修行もしたくなるなっていう。

山田:やみくもに山に行ってしまいました。

小川:(ポスターを指しながら)その結果この緑が、新緑が。

山田:滝に打たれたからです(笑)。

山田:えっ「私はみどりが好きです」とかそういうのはいいんですか?

難波:えっ、何をぶっこんできてるんですか?

山田:めちゃくちゃみどりが好きで。

難波:そういう趣旨の回じゃないですよね? みどりについてはちょっと話す時間が足りないので、話すんだったら……。

山田:一晩じゃ足りない。

難波:そう。飲み明かさないといけない感じなので控えます(笑)。

――あらためて、最後にひとことづつご挨拶いただければ。

難波:こうして予定には無かった舞台挨拶をスタッフだけでやらせていただけるのも、本当にみなさんの応援のおかげです。みなさんの反響を受けて是非感謝の気持ちを込めてやらせていただいたのが、今回の舞台挨拶だったりとか、明日からの入場者プレゼントになっておりますので。ここに立てていることがとても嬉しいです。

小川:僕もこんな場に立つのは、前にトークイベントを京都のほうでさせてもらったんですけど、それを含めると二回目。今回は更にお客様の人数も多いということで、まさかね、僕がこんな場に立つなんてことが……

山田:泣いちゃうんですか?

小川:あ゙り゙がどゔござい゙ま゙ずー!(笑)。いや、ホントに立っていられるのも見てくださった方々のおかげです。本当にありがとうございます。

山田:公開初日は期待とかいっぱいあったけど不安もいっぱいあって。どうかなどうかなと思いながらだったんですけど。予定のない挨拶をさせていただけるっていうことは、たまこたちの勇気がみなさんに届いたということでよろしかったでしょうか。

『たまこラブストーリー』を世に送り出せて、ホントに幸せな作品に携わることが出来てサイコーだなと思っております。これからも大事な一本として、みなさんに愛されたいなと思っております。『たまこラブストーリー』がですよ(笑)?

<Text/佐藤京一>

【作品概要】
『たまこラブストーリー』
新宿ピカデリー他全国劇場にて、大ヒット上映中!!

【スタッフ】
監督:山田尚子
脚本:吉田玲子
キャラクターデザイン:堀口悠紀子
美術監督:田峰育子
色彩設計:竹田明代
撮影監督:山本 倫
設定:秋竹斉一
音響監督:鶴岡陽太
音楽:片岡知子
編集:重村建吾
アニメーション制作:京都アニメーション
製作:うさぎ山商店街
配給:松竹
主題歌:洲崎 綾「プリンシプル」

【キャスト】
・たまこラブストーリー
北白川たまこ:洲崎 綾
大路もち蔵:田丸篤志
常盤みどり:金子有希
牧野かんな:長妻樹里
朝霧史織:山下百合恵
北白川あんこ:日高里菜
北白川豆大:藤原啓治
北白川ひなこ:日笠陽子
北白川 福:西村知道
大路吾平:立木文彦
大路道子:雪野五月
「フローリスト プリンセス」花瀬かおる:小野大輔
「星とピエロ」八百比邦夫:辻谷耕史
「うさ湯」湯本長治:津久井教生
「うさ湯」さゆり:岩男潤子
「ジャストミート」満村文子:渡辺久美子
「トキワ堂」常盤信彦:家中 宏
「さしみ」魚谷 隆:成田 剣
「清水屋」清水富雄:川原慶久
犬山:山下大輝
桃太郎:野坂尚也

・同時上映『南の島のデラちゃん』
デラ・モチマッヅィ:山崎たくみ
チョイ・モチマッヅィ:山岡ゆり
メチャ・モチマッヅィ:下野 紘

(C)京都アニメーション/うさぎ山商店街

●作品公式サイト
http://tamakolovestory.com/